「ホンダ・シビックRS」はプアマンズ「タイプR」にあらず! 人気の秘密を探る
日常は気を使うことも多いタイプR
筆者は幸せなことに、現行タイプRに触れる機会が多い。仕事だけでも、すでに10回以上は試乗させてもらっているし、プライベートでも触れる機会がある。そうした経験からいわせていただくと、シビックRSは当たり前だが、タイプRのかわりとはなり得ない。乗り心地については連続可変ダンパーを備えるタイプR(のコンフォートモード)のほうが市街地でも快適なくらいだが、日常のアシとしての使う際のストレスはRSのほうが圧倒的に小さい。どこでも気兼ねなく乗っていける気安さが、タイプRに対するRS最大の魅力だと思う。 というのも、スピードを極限まで追求したタイプRは、日常は気を使うことも意外なほど多いのだ。 その最たるものは“幅”だ。タイプRの全幅は1890mmで、RSを含む普通のシビックより90mmもワイドである。ちなみに1890mmという全幅は、「ポルシェ911」より幅広い! 同じ911でも「ターボ」や「GT3 RS」は少しワイドだが、それでもタイプRと10mmしかちがわない。近年の国産車でタイプRと同等の全幅を持つクルマとなると、「レクサスLM」や「トヨタ・クラウン セダン」など、シビックより2クラスは上のクルマばかり。さらにいうと、あの「日産GT-R」ですら、タイプRより5mm幅広いだけだ。 また、タイプRは最小回転半径も5.9mで、「トヨタ・ランドクルーザー“300”」や「BMW X5」といった大型SUVと同じくらい小回りが利かない(笑)。まあ、シビックRSのそれも5.7mと小回りが利くタイプではないが、同じくSUVを例にとると「BMW X3」と同等ではある。つまり、タイプRとはクラスちがいの差がある。
本来の魅力を再認識させる存在
タイプRの“幅”にまつわる問題は全幅だけではない。シビックはタイプRも通常モデルも、国産車としては異例なほどタイヤが張り出している。トレッドとタイヤサイズから計算すると、“タイヤ外幅”の最大値は、RSがリアで1800mm、タイプRはフロントで1890mmに達する。つまり、どちらも全幅ギリギリまでタイヤが張り出しているわけだ。それが今のシビックのカッコよさや走行性能に大いに功を奏してもいるのだが、普段の取り回しに気を使ってしまうのも否定できない。 国内の立体駐車場では、タイヤ外幅の制限が全幅よりもタイトなケースも多い。実際、筆者も“全幅1.9mまで”という表示に安心して、立体駐車にタイプRを入れようとしたところ、どうしてもタイヤが引っかかって断念……という経験を何度かした。だから、最近はタイプRで立体駐車場を使うときは、全幅と同じかそれ以上に、タイヤ外幅を気にするようになった。そうなると、とくに出先でのタイプRは、ちょっとしたスーパースポーツカーなみに気を使うハメになる。 また、シビックの歴代タイプRは4人乗りであることも伝統で、現行タイプRも例外ではない。対して、RSの乗車定員はもちろん通常のシビックと同じ5人だ。日常的に使うとなると、いざというときに定員が1人少ないのは、意外に面倒くさい。 かつてクルマ好きの若者の定番だったホットハッチとは、スポーツカーはだしの走りを、実用車の気安さと使い勝手とで両立し、しかも割安な価格で提供するのが、本来の魅力である。その意味でいうと、今のタイプRはスピードを追求するあまり、もはやホットハッチの領域を逸脱してしまっている。それはある意味で最新のタイプRの大きな魅力でもあるが、逆に足かせでもある。 シビックRSの初期受注におけるトピックは、シビック全体の約7割という高いシェアに加えて、その購買層の中心が20代の若者であること……とホンダは語る。対するタイプRの新車オーナーは、40~50代の中高年が中心という。いかんせん受注停止中のタイプRと単純に比較はできないが、新しいシビックRSは、タイプRより約80万円安い価格も含めて、シビックが忘れかけていた、ホットハッチ本来の魅力を再認識させる存在なのかもしれない。 (文=佐野弘宗/写真=花村英典、本田技研工業/編集=櫻井健一)
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