「バレエがこんな世界だったなんて」 谷桃子バレエ団の密着動画「賛否の嵐」とその先 “ガチの密着”で映像ディレクターも自問自答
僕はある意味、楽観的すぎた。良くも悪くも。バレエの、そして谷桃子バレエ団の歴史や背景を知らない分、大胆に行動できた。 この感覚の違いが、後々僕とバレエ団の間に大きな摩擦を生んでいった。 ■積み重なる担当者の迷いと不安 「このまま続けて大丈夫なんでしょうか?」 沈んだ声で懸念を示す電話の相手はバレエ団の運営会社の担当者。僕の会社が作るキャバ嬢やホスト、日本の夜の仕事に密着するYouTubeチャンネルを見て、動画制作のオファーをしてくれた人だ。
動画の配信が始まってから、毎晩のように彼女と電話する日々が続いていた。YouTubeでバレリーナの密着動画を公開し、話題にすることでバレエ団の知名度アップ、チケット販売数の増加に繋がるはず。もともとはそんな思いで僕らにオファーをくれたのだ。 しかし、動画公開を始めて2カ月。次々と来る周囲からのネガティブリアクションにより、彼女の心は揺らぎ始めていた。 彼女自身も最初は、僕と同じく「バレエをまったく知らない人」だった。
4年前にバレエ団の運営に参入してから、おそらく相当勉強したのだろう。今ではバレエ団の人たちと遜色ないほどバレエの知識を持っていた。 そんな、「バレエを知らない一般の人」と「バレエを知っている人」両者の考えを理解できる彼女が、僕とバレエダンサーの間に入ってバランスを取ってくれていた。 密着撮影のたびに、「バレエダンサーはこういうところを撮られるのは嫌がると思います。でも先に私の方から意図を説明してできるだけ撮れるように段取ります」など、トラブルになりそうなところをすべて先回りして根回ししてくれていた。
次々と来るネガティブなコメントにダンサーたちからも不安や不満の声がたくさん届いていたらしい。しかし、それを密着ディレクターである僕に伝えると「動画の方向性がブレるかもしれない」と考え、伝えるのは必要最低限に抑えてなんとか上手くいくように駆け回ってくれていた。 団員だけでも150人近くいる。その一人一人の不安と向き合い、対応するのは並大抵のことではない。この担当者がいなかったらこのチャンネルを継続できていないだろう。彼女は真の立役者と言っても過言ではない。