なぜテールスープは美味しいの?→専門家が教える「しっぽの中身」の秘密とは
この近位尾椎と遠位尾椎の境目には、両方の特徴を併せ持つ椎骨が存在しており、そうした椎骨のことを移行椎と呼ぶこともある。あくまで個人的な経験談でしかないが、テールスープの中に入っている骨は、近位尾椎または移行椎のことが多い。 ● もうひとりの立役者・筋肉 人間にもその名残がある? 続いて、骨と同じく大事な要素である、しっぽの筋肉についても整理してみよう。 生き物の多様な動きを可能にする立役者が筋肉である。骨だけの状態では動き回ることができない。せっかくなので筋肉の大切さを伝えるために少々脱線するとしよう。 あれは私がまだ幼かった頃、子どもたちの間でまことしやかに囁かれていた噂があった。私が最初にそれを耳にしたのは、小学校の理科準備室に入ったときだ。近くにいる先生に聞こえないように、同級生がひそひそと耳打ちしてきたのだった。 「なあなあ、知ってる?あれ、夜になったら学校の中、歩き回るんやって」 そう言って彼女が指さした机の上、そこに置かれていたのは古ぼけた人体模型だった。木か何かでできていたように思う。頭髪はびちりと七三分けの男性で、開胸・開腹した状態を模しており、腹腔の臓器が顕になっているタイプのものだった。
「いや!こっち見てるわ!呪われる!」 ひいと言って怖気づいた同級生は私の後ろに隠れたのだが、かの模型は一寸も動かずに虚空を眺めていた。 「大丈夫、大丈夫。これ、歩き回らへんし」 私は笑いながら同級生に言った。私は準備室に入る度にその模型で遊んでいるが、別に動いた形跡はない。しかし、いくらそう言っても同級生は頑としてこれは歩き回るのだと聞かない。仕方ないので、私はとっておきの言い分を披露することにした。 「いや、歩き回らんよ。これ脚ないんやから」 その模型は今でいうトルソー型で、四肢は備えていなかった。ついでに、開腹している上、古い模型なので、もし動き回ったら臓器をあちこちに落としてしまう。だから彼はじっとしているんだ、と説いた。怪談話を1つ葬ってしまった甘酸っぱい記憶である。 と、このように全国の怪談話の中には模型や本物の骨格標本がひとりでに歩き回るというものがある。しかし、それは解剖学的にありえないのだ。骨に付着する筋肉を持たず、ただ骨同士がワイヤーでつながれている彼らは、歩きたくても歩けるわけがないのだ。