なぜテールスープは美味しいの?→専門家が教える「しっぽの中身」の秘密とは
濃厚なダシや香りが人気なテールスープ。牛などのしっぽを煮込んだ料理だが、その奥深い味わいの理由はしっぽの骨格にあった。しっぽが専門の研究者が、しっぽの骨や筋肉の構造を詳しく解説するとともに、テールスープの骨が標本作りにうってつけである理由をユーモラスに語る。本稿は、東島沙弥佳『しっぽ学』(光文社新書)を一部抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● テールスープを知るには まずしっぽを構成する骨を知ろう この間講演をしたときに、面白い質問をいただいた。 「テールスープはなぜ美味しいのですか?」 大人の方からの質問だったのだが、私はテールスープもこういったシンプルな質問も大好物である。テールスープがうまいわけ、そこにはもちろん作り手の愛情も存分に含まれているに違いないが、旨味成分への寄与という観点では、しっぽの中身のおかげである。 しっぽの動きを脳内で再現してみていただきたい。さて、皆さんの頭の中でしっぽはどんな風に動き回っているだろう。 ピンと立ったしっぽや、くねくね動くしっぽ、ぶるんぶるんと振り回すしっぽ。枝に巻きついたしっぽに、すいすいと水面を動いていくしっぽ。色々な動物が実に多様にしっぽを使うものだから、想像するだけできっと楽しい気分になってくるだろう。その魅力的な動きはいずれも、しっぽの中に骨と筋肉が存在しているおかげでなせる業なのである。 ではまず、しっぽの中にどのような骨があるのかについて、ご紹介するとしよう。 しっぽを構成する骨には、ざっくりといえば仙骨と尾椎の2種類がある(図2-2)。
仙骨というのは複数の仙椎が癒合して形成されていて、体幹部としっぽをつなぐように位置している。その後ろには、尾椎と呼ばれる椎骨がしっぽの先端まで分布している。 尾椎は、しっぽの根元に近い近位部分とその先の遠位部分とでかたちが明確に異なる。近位尾椎は、それより前方に存在する腰椎などの椎骨と似たようなかたちをしているが、根元から遠ざかるにつれ、尾椎のかたちはシンプルになっていく。 近位尾椎と遠位尾椎の最も大きな違いは、前後の骨との連結方法だ。近位尾椎は椎体の関節面に加えて、関節突起という骨の突起で前後ががっちりと噛み合うようになっている。要は2種類の関節を持つわけだ。 対して遠位尾椎は関節突起を持たず、前後の椎骨とは関節面のみで関節する。関節のがっちり加減が違うということはすなわち、動かすことができる方向や範囲に違いが生じるということになる。しっかり互いに関節する近位尾椎は、尾の根本で体幹と尾をしっかりとつないでいる。対して、自由度の高い遠位尾椎がしっぽの様々な運動を可能にしているのだ。