ジャパネットが実践する、アットホームでストイックな生産性向上施策とは
「働き方改革」「生産性向上」の重要性を理解し、さまざまな施策を実践しているが今一つ手応えを感じられない、という人事パーソンは多いようです。 ジャパネットホールディングスでは「働きやすさ」と「生産性」に着目し、働き方を一新。長時間労働や離職の削減へとつなげているそうですが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。 「HRアカデミー2023冬期講座」では、同社人事本部の田中久美氏が、これまで取り組んできた施策と具体的な成果について解説。「自社の働きやすさや生産性向上のために何ができるか」をテーマに、受講者によるグループディスカッションも行い、いま人事部門は「働き方改革」「生産性向上」にどう向き合うべきなのかを考えました。
ジャパネットホールディングスが徹底する残業削減と休暇取得
ジャパネットホールディングスは、長崎県佐世保市の1軒のカメラ店から始まり、テレビショッピングへと事業を拡大。現在は、通信販売事業とともに、プロのサッカークラブやバスケットクラブの運営、サッカースタジアムを中心としたまちづくりなど、スポーツ・地域創生事業も行なっている。従業員は4000名以上、売上2600億円規模にまで成長を遂げた。2015年には創業社長の髙田明氏から、新社長の髙田旭人氏へ経営のバトンが渡されたが、このタイミングで本格的な働き方改革が始まった、と田中氏は語る。 「私が入社した2006年当時に比べると、事業の幅は大きく広がっています。そんな中でも一貫している考えは『自前主義』です。基本的に外部委託はせず、何でも社員が担います。例えば、広告代理店のような仕事も、テレビ放送も、カタログ作りも、コールセンターでの受付も、全部従業員が手がけています。このような業態や平均年齢の若さもあって、ハードに働く時代が続いていましたが、社長交代を機に見直すことになりました」 取り組みの結果、「働き方改革企業特別賞」や、5年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」(経産省が健康経営企業を表する制度)を受賞。ここに至るまでには、どのような取り組みがあったのだろうか。 田中氏は「働きやすさを整えて楽にするだけではなく、“生産性を同時に上げていくこと”が根本的なポイントになる」と強調した。 まず取り組んだ施策として、「勤怠ルールの改善」をあげた。 「以前は、何時まででも残業できる状態でしたが、まず『22時』までに絶対オフィスを出ることを目指しました。さらに週2回はノー残業デーとし、インターバル勤務制度を設けて9時間以上の休息を必須にしました。ところが当初は、社員から猛反発を受けました。『それでは仕事が終わらない』というのです」 こうした社内からの反発は、多くの企業で耳にするところだ。同社では「トップダウン」と「やりきる・徹底する姿勢」で、この課題に対処した。 「仕事を完遂するために残業を続ける社員を見て、社長が『働き方を変えた方が生産性は高まる。信じてほしい』と諭しながら、オフィスを回って規定時間を過ぎても残っている社員を追い出し始めました。トップ自らが、強く働きかけたのです。 人事からも、働く時間の意識を変えるために、社員一人ひとりへの丁寧な対応を心がけました。パソコンのログやオフィスの入退室をチェックして、勤務時間が長い社員と個人面談をしたり、残業をしている人には施策の意図を改めて伝えたりするなど、地道な活動を続けたのです」 すると、次第に働き方への工夫が各所で見られ始めた。例えば、カタログ制作チームでは、校正回数を3回から2回に減らし、複数種類のカタログの制作工程をまとめて一括で作業するなど、業務フローを見直した。効率化につなげる知恵を社員が出し合ったのだ。こうして、はじめは「22時」だった退勤時間が今では「20時30分」にまで繰り上がり、ノー残業デーは週3日に増えた。 有給休暇の奨励も行った。社長が「欧米では長期休暇を取って仕事もうまく回っているのだから、日本でもできないはずがない」と考えて導入されたのが、リフレッシュ休暇である。連続した5日間の有給休暇と公休日と合わせて9連休の取得を推奨。制度が浸透した現在は、有給休暇10日と公休日と合わせた16連休取得を促している。 「この制度に対しても、最初は社員から『Aさんが1週間もいないと仕事が回りません』といった反応がありましたが、強制的に休暇の取得を進めました。すると、本人にしかわからない仕事は誰かが引き継がざるをえず、仕事がどんどん見える化されていったのです。お互いの仕事をサポートできるようになり、休暇が取得しやすくなりました 」 休暇中はしっかりとリフレッシュしてもらうため、社用の携帯端末を上司に預けて、全く会社と接触できない状態にしている。当初は、仕事が気になって携帯端末を持ち出す社員もいたが、本人や上司に働きかけると同時に、休暇中は入電がすべて上長へ自動で転送されるシステムも作ることで、徹底したという。 「福利厚生面では、健康診断にかなり予算をかけています。年齢の条件はあるものの、パート・アルバイトも含めて、がん検診はオプションまで全部無料で受けられます。また、検診でがんが見つかった方に協力してもらい、社内研修で検診の大切さを語ってもらうなど、健康への意識向上に努めています」