中国で流行?〝寝そべり文化〟の若者たち 「国境ナイトクルージング」アンソニー・チェン監督
中国と北朝鮮の国境の町、延吉で偶然出会った3人の若者の姿を映し撮った「国境ナイトクルージング」。異文化が混ざり合う極寒の地で一緒に飲み明かし、過ごした数日間を繊細に表現した。アンソニー・チェン監督は「この映画自体が多くの自由を生み出し、現代の若者の内面と彼らが求める精神的な自由についての映画になった」と語った。 【写真】「国境ナイトクルージング」のアンソニー・チェン監督「何かを手放すことによって得るものがある」
異文化の混じり合う町 3人の男女
オリンピック出場を断念した元フィギュアスケーターで観光ガイドのナナ、勉強が苦手で故郷を飛び出し親戚の食堂で働くシャオ、母からのプレッシャーで心を壊したエリート社員ハオファン。3人は共に楽しみ気ままに過ごすが、互いに深入りはしない。孤独を抱えた心が少しずつほどけていく。 シンガポール出身のアンソニー・チェン監督。新型コロナウイルスによるパンデミックの中で「フィルムメーカーとしての存在意義、成長できるかを自分に問いかけた」という。それまでの自身の映画作りの踏襲を避け「自分に挑戦を課す」中で作ったのが本作だ。毎日20度以上の温かいシンガポールを離れ、氷点下20度の土地に身を置き、中国語と韓国語が耳に入る、文化が混在する中で映画製作を始めた。 以前は2年かけて完璧な脚本を書き上げ、プロデューサーから「完成した映画と全く同じ」と言われるほど準備する、突き詰めた映画作りを繰り返してきた。「今回はそこから自分を解放することに注力した」。脚本を書く前に決めていたのは、2021年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映されたオムニバス映画「THE YEAR OF THE EVERLASTING STORM」(ロンドンから遠隔で撮った作品)で初めて仕事をしたチョウ・ドンユイへの出演依頼だったという。
「突然炎のごとく」のスタイル
「内容的には、パンデミック中にニュースなどで見た、中国の新しい世代の生き方『寝そべり』に注目した。いろいろなことを手放し、緩くやっていこうという若者像だ。全て同調するわけではないが、中国に限らず普遍的な若者の傾向として理解したいという考えのひとつだった」 とはいえ、自分らしさの反映も忘れていない。「好きな作品であるフランソワ・トリュフォー監督の『突然炎のごとく』(1962年)の男2人と女1人のスタイルを導入。俳優3人には自分から連絡をとった。脚本はまだ完成していなかったが、この3人の物語を見たいと思った」と話した。 作品のベースになったのは、チェン監督自身の延吉での体験だ。「ロケハンで私が経験したこと。山に行ったり、街を歩き回ったり、観光ツアーに参加したり。頭の中で考えるのではなく体験し、実感したことを反映させた。国境の街は初めてだったので、そこで感じたリアルなものを膨らませ混在させた」