なぜ総合格闘家・石井慧のボクシングデビュー戦は2-0判定の不完全燃焼に終わったのか…ボクサーとしての実力は?
高山は押し込められたコーナーから脱出できなかった。 「単純に回りたかったが、多少は押せないと回れない。でも、まるで岩や大木を押しているんじゃないか、というイメージが出てくるほど押せなかった」 スタミナを消耗する戦術ではあるが、柔道家時代から無尽蔵のスタミナを持ち、総合格闘家として鍛えあげたフィジカルに優る石井は、4ラウンドも、そのスタイルを貫き、完全にパワーで高山を支配した。 「フィジカルとカーディオ(スタミナ)だけはよかった」 6週間ロシアで行ったボクシングキャンプでは、親交のあるロシアの元WBA世界ヘビー級王者から紹介されたスパーリングパートナーを相手にこの戦法を徹底して練習してきたという。 石井は至近距離から思い切りフックを振りまわすが、決定打には至らない。パンチに力みがあり、単発となってキレがないため、高山に見切られディフェンスされるのだ。大型ボクサーが陥りやすい課題。打ち合いの中で試合終了のゴングが鳴り、石井は両手を上げたが、KO決着はできなかった。3兄弟を世界王者にしたトレーナー実績がある亀田史郎氏からは「もっとショートを磨け」とのアドバイスを受けたという。 「ボディに散らして右のジャブを使うこともできなかった。サウスポーのアドバンテージを生かし、リバースショットからのアッパーとか、もっと精度を上げていきたい」 反省ばかりが頭を駆け巡った。 では石井のボクサーとしての実力と可能性はどうなのか。 敗れた高山に石井の可能性を聞くと、社交辞令はなく、辛辣な意見を口にした。 「正直に話をすれば、4回戦、6回戦で止まるのでは。8回戦、10回戦となったときはスタミナ次第。体のでかさはあるので国内では問題ないが、ミツロ選手とやるのはおそらく不可能でしょう」 高山の応援を兼ねてリングサイドで見守った元WBC世界スーパーフライ級王者の徳山昌守氏も、「まだ初心者レベル。パワーは凄いが、ステップひとつにしても、柔道、格闘家のような動きを抜け出せていない。もっと鋭いステップインも必要だし、ボクサーとして身に付けねばならないことはたくさんある。本人もそう言っているようだが、世界を狙えないだろうし、現状では但馬ミツロ選手にも勝てないでしょう」という厳しい見方をしていた。 もちろん、その現実は、石井自身が一番わかっていた。 前日会見では、「踏み台にしてみれば?」と但馬へ挑戦状を叩きつけていたが、「ミツロ選手の踏み台にもならない」とトーンダウン。 但馬は、メインイベントで韓国のヘビー級王者のイ・ソンミン(31)を圧巻の1ラウンド69秒TKOで下し、プロ2戦目の最速記録で日本王座を奪いとった。 「序盤相手のパンチを確認して想定ならGO」と最初はガードを固めてパンチを受け、その実力を見極めると、反撃を開始。スピードとパンチ力の差は明らかで、強烈なアッパーから左右のパンチを打ちこみ、戦意を喪失させてレフェリーがストップ。ダウンはなく立ったままのTKO勝利だったが、顔をゆがめてセコンドに抱きかかえられてコーナーに戻った韓国王者は、しばらくイスから立ち上がれないほどのダメージを受けていた。今の実力差で戦えば、石井のフィジカルとパワーをもってしても敗戦は目にみえている。