人に歴史あり、クルマに来歴あり! 魅惑的なエピソードを持つクラシックカー
大事なのは価格にあらず
毎年のことだが、3月の半ばごろから梅雨が始まる6月の初旬ぐらいまでは、秋と並ぶ旧車イベントのハイシーズン。筆者の取材歴も考えてみればけっこうな長さになるが、珍しいクルマや初めて見るクルマを前にすると、いまだにテンションが上がる。 【写真】ユニークな来歴を持つクラシックカーを詳しいキャプション付きでもっと見る(21枚) 例えばどんなクルマかと問われたら、こう答える。タイプや車種、生産国や車格、ひいては車両価格などはあまり関係ない。引かれるのはこれまでに過ごしてきた時間、オーナーと紡いできたストーリーなどヒストリーの感じられるクルマ。極端なことをいえば、海外から輸入されて間もないレストア済みでピカピカの高級スポーツカーよりも、長年にわたって実用に供され、いい具合にヤレた軽自動車のほうに魅力を感じるのだ。 となれば、過日開かれた「オートモビル カウンシル2024」のようなイベントに並ぶクルマは興味の範囲外? 出展車両の多くは極上コンディションの希少車で、当然ながら価格も高価なのだから……と思われるかもしれない。 だが、実際はそうではない。最初に述べたように、価格はあまり関係ないからだ。たとえ高級車や高価格車であっても、現実問題として手が届く届かないは別としてヒストリーが感じられるクルマには興味を覚えるのである。会場にそんなクルマがあったのかって? もちろん、何台もありました。ということで、そうしたクルマのうち何台かを紹介していこう。
超お宝の「911S」
しょっぱなからラスボスを紹介してしまうと、今回のオートモビル カウンシルでの個人的な「ベスト・オブ・ショー」は、ヘリテージカー販売店のAUTO DIRECTが出展した1967年「ポルシェ911S」だった。正直、ポルシェにはあまり興味がない私が心引かれる数少ないモデルが初期の「356」と911なのだが、この911Sはモノグレードで始まった911に高性能版の「S」が加えられた最初のイヤーモデル。操縦性改善のためにホイールベースが延長される前のショートホイールベース仕様である。 そのスペックだけでも貴重なのに、加えてこの個体は当時のインポーターだった三和(ミツワ)自動車による正規輸入車で、内外装は補修塗装などを除き未再生のフルオリジナル。しかも新車時からの「足立 5」のシングルナンバー付きという、プレミアム要素がすべてそろったお宝物件だったのだ。 さらにボディーカラーも私好みだった。1960年代後半から1970年代初頭にかけての流行色だった黄土色。アルファ・ロメオでは「ジアッロオクラ」、フィアットでは「マスタード」、日産では「サファリブラウン」や「サファリイエロー」といった色名を名乗っていたが、「バハマイエロー」と称したポルシェの911と「912」にこの色は一番似合っていると思うのだ(個人の感想です)。 このようにすばらしい911Sだが、新車価格も立派だった。比較対象として紹介しておくと、同じ年に発売された国産スポーツカーの最高峰だった「トヨタ2000GT」が238万円。同門の「クラウン」の最上級グレードだった「スーパーデラックス」(112万円)の2倍以上だが、それでも開発・生産コストを考えたらバーゲンだったと思う。とはいえ庶民の生活水準からすれば、とんでもなく高価なことは間違いなかった。 対してポルシェは標準の911で435万円、911Sはなんと510万円! 当時、輸入車には関税(小型車40%、大型車35%)がかけられていたこともあって、同級のトヨタ2000GTの2倍以上もした911Sをいったいどんな人が購入し、どんな乗り方をしていたのか……。実車を前にあれこれ妄想が膨らんでしまうのである。 今回は参考出品とのことだったが、販売については「ナンバーをはじめすべてのヒストリーを受け継いでくれる方がいらっしゃれば考えます」とのことだった。