原油価格下落で98年ロシア危機は再来するのか? 金融アナリスト・久保田博幸
2014年7月あたりから原油価格が大きく下落しています。原油価格の代表的な指標となっているWTI先物の価格は、7月に1バレル100ドル台にあったものが、12月には50ドル台前半にまで下落しました。米国のシェールガスに対抗するため、サウジアラビアなどが価格下落を意識して減産を阻止していることが、原油価格下落の最大の要因です。 原油価格の下落により、産油国であるロシアの経済に影響を与える恐れが出てきました。ロシアの通貨ルーブルは大きく下落し、ドルに対して最安値を更新しました。ロシアの株価も急落しました。ロシアの中央銀行は12月11日に続いて16日に緊急利上げを実施し、ルーブル安に歯止めを掛けようとしています。 12月16日にはタイの株価も急落し、資源関連株の比重が大きいマレーシアやインドネシアの株も下落するなど、原油安は新興国にも大きな影響を与えています。これらの動きは、1997年のアジア通貨危機や1998年のロシア危機を連想させるような動きとなっていました。 1998年のロシア危機は、ロシアの輸出の8割を占める天然資源、なかでも原油価格が下落したことにより、国際収支が悪化し、それまでの財政の悪化にさらに拍車をかけた結果、起きたものでした。ルーブルが急落し、ロシアからの資金流出が発生しました。8月にはロシア政府とロシア中央銀行は対外債務の90日間支払停止を発表し、ロシアはデフォルト状態に陥ったのです。このロシアのデフォルトにより、大手ヘッジファンドのLTCMが破綻寸前に追い込まれました。 当時と比較してロシアの外貨準備は大きく増加しており、すぐに1998年と同様の危機が発生する懸念は少ないのですが、このまま原油価格が下落し続けると、ロシアの潤沢な外貨準備は減少し、危機の再来の可能性もないとは言えません。WTI先物は40ドルも割り込むのではとの見方も出ており、サウジアラビアの石油鉱物資源相は1バレル20ドルまで下がっても減産に動かない考えを示しています。 この原油価格の下落は産油国の経済にとってはマイナスとなっても、原油を輸入に頼る日本などを中心に、世界経済にとってはプラスの要因となります。ただし、原油価格の下落は物価の上昇抑制要因となります。ここにきて日本の長期金利が過去最低を更新しているのは、日銀による大量の国債買入とともに、物価が原油安により抑制されるためとの見方も背景にあります。さらに、物価の抑制は日銀の物価目標達成を困難にさせます。