激戦地ディエンビエンフーの恋、独立決めた戦勝70年で注目 ベトナム、敵司令部で結婚式。純愛憧れ女性の人気スポットに
第1次インドシナ戦争でベトナム人民軍がフランス軍の敗北を決定的にし、植民地支配を終結させた1954年の「ディエンビエンフーの戦い」の勝利から、今年で70年を迎えた。「勝ったら結婚しよう」。約束を支えに激戦を生き抜き、勝利から2週間後、陥落させたフランス軍司令部で結婚式を挙げた軍人と女性衛生兵の恋物語が「ロマンチックだ」と再注目されている。(共同通信ハノイ支局 松下圭吾) 北西部の山岳地帯ディエンビエンフーにあるフランス軍の司令部があった地下壕。ガイドのロー・ティ・トゥエットさん(21)が「結婚式に花はありませんでしたが、戦利品のフランス産のウイスキーや菓子でお祝いしました」と説明すると、訪れた女性観光客から「純愛ね」「すてき」と声が上がった。 2人は、連隊副司令官だったカオ・バン・カインさんとグエン・ティ・ゴック・トアンさん(94)。トアンさんや地元メディアによると、1950年ごろ同郷の縁で出会った。互いに戦地に身を置きながらも手紙をやりとりして愛を育み、婚約した。
ディエンビエンフーの戦いは世界史の教科書にも載る。要塞化したディエンビエンフーに立てこもった、装備で勝るフランス軍をベトナム側がゲリラ戦で打ち負かし、撤退に追い込んだ。 1954年5月7日の勝利後、フランス語が堪能だったトアンさんは近くの野戦病院から、軍本部付き通訳勤務を命じられ、カインさんと再会。婚約を知っていた上官の計らいで5月22日に結婚式を挙げた。結婚写真は地下壕付近の戦車に乗って撮影した。 カインさんが1980年に亡くなるまで2人は仲むつまじく暮らした。トアンさんが2024年2月、ディエンビエンフーを訪れ、戦地で撮影した写真を博物館に寄贈すると、地元紙は2人の恋物語も一緒に紹介した。 ガイドのトゥエットさんは、今年の再訪で恋物語が広まったとし「感動して泣き出す観光客もいた」。ツアーに参加した20代の女性教師ドー・ティ・ガットさんは「心を揺さぶられた。国に尽くした人びとの記憶を生徒にも伝えたい」と話した。
「侵略者にあらがうベトナムの戦いの中で、最大の勝利だと位置づけられる」。ベトナムの歴史研究家カオ・バン・リエンさんはディエンビエンフーの戦いについてこう語る。植民地支配に終止符を打った象徴的な勝利は、2人の恋物語で一層意義深くなる。 現在は南部ホーチミンに娘らと住むトアンさんは取材に「戦友のことは今も忘れていない」と話し、自身の物語を通じて次世代が歴史を知ってくれたらうれしいとほほ笑んだ。