5年に1度の「財政検証」でわかったこととは。現在の平均受給額と将来の年金見通し
基礎年金の拠出期間延長は見送りに
今回の財政検証で話題となった「基礎年金の拠出期間延長・給付増額」は、所得代替率を改善する効果はあるものの、保険料の負担が5年間でおよそ100万円増えることになります。 低所得者にとっては大きな負担であり、広く国民の理解を得られないと判断したことから、2025年の年金改正に基礎年金の拠出期間延長を盛り込むことは見送られることになりました。
平均受給額と将来の年金見通し
ここで、現在の年金受給の状況を確認しておきましょう。 ●国民年金と厚生年金の平均受給額 厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、国民年金と厚生年金の男女別の平均受給額を見てみましょう。 国民年金(基礎年金)の平均月額は、男女ともに5万円台となっています。国民年金だけでは生活できないことは明らかであるため、貯蓄や個人年金などで準備する必要があるでしょう。 厚生年金の平均月額は、男性は16万円台、女性は10万円台と男女の差が大きくなっています。全体では約14万4000円です。 夫が厚生年金、妻が国民年金の平均額を受給している夫婦世帯の場合、年金額は約21万8000円となります。 総務省の家計調査による「65歳以上の夫婦のみの無職世帯の家計収支」における社会保険給付の金額とほぼ一致しています。 この調査ではその他の収入があるため、不足分は約4万円ですが、年金以外の収入がない場合は、不足分は約6万4000円となります。 90歳まで生きると仮定すると、1920万円の不足となります。つまり、平均的な年金額を受給している夫婦でも、年金以外に約2000万円必要になるということです。以前話題となった老後2000万円問題と合致しますね。
将来の年金見通し
現在の年金受給者の平均受給額でも、およそ2000万円不足することが予測できましたが、2024年度の所得代替率は61.2%です。 財政検証の経済前提(3)の「過去30年投影ケース」では、将来的に所得代替率は50.4%まで下がることが予測されているので、さらに、厳しい状況となるでしょう。 そのため、財政検証のオプション試算で示した制度改革が必要となってきます。 今回、「基礎年金の拠出期間延長」は見送りとなりましたが、将来的には再度検討される可能性もあります。 「被用者保険の適用拡大」と「在職老齢年金制度の見直し」は年金改革に留まらず、人出不足の解消にもなるため、実現性は高いといえます。 特に「被用者保険の適用拡大」は2024年10月に、50人超規模の企業まで適用範囲が拡大することが決まっており、更なる適用拡大に向けての検討は十分考えられます。 この制度改正は、いわゆる「年収の壁」や第3号被保険者制度の見直しにもつながります。 公的年金制度を長期にわたって持続させるためには、社会や経済の変化に応じた、適切な制度改革が必要となります。 そのために、将来の姿がどうなるかを試算する「財政検証」がとても重要になります。そこで改善が見込まれる制度改革があれば、積極的に取り組むべきでしょう。 若い人ほど、将来の年金について悲観的になっていると思いますが、検証と制度改革によって、健全化に努めていることを知っておくと、年金制度への不安はいくらか和らぐのではないでしょうか。
参考資料
・厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」 ・厚生労働省「令和6 <2024> 年財政検証結果の概要」 ・厚生労働省「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」 ・総務省「家計調査報告 家計収支編 2023年(令和5年)平均結果の概要」
石倉 博子