『もらとりあむタマ子』いましろたかし作品を絶妙に変換!? 山下敦弘&向井康介が手がける前田敦子主演作
“いましろたかしスクール”から生まれた成果続々
『もらとりあむタマ子』は元々MUSIC ON TV!(以下M-ON!)のステーションID(15秒もしくは30秒のスポット映像)が発端となった企画で、前田敦子演じるタマ子があまりに魅力的なことから、まずはドラマ化の話が立ち上がり、2013年4月にM-ON!でスペシャルドラマ『秋と冬のタマ子』が放送。さらに「春」編と「夏」編が加わったものが、計78分の劇場用映画として同年11月に公開された。プロデューサーは当時M-ON!所属だった齋見泰正と、『リンダ リンダ リンダ』(2005年)など山下監督と続けて組んできた製作会社マッチポイントの根岸洋之。本作ではタマ子の人生で(おそらく)最もダメな一年の日常が、四季の風景と共にスケッチされ、星野源のエンディングテーマ曲「季節」で美しく締められる。ちなみに『化け猫あんずちゃん』の音楽と寺の住職役の声優を務めたのは鈴木慶一だが、『もらとりあむタマ子』では康すおん演じるタマ子の父親・坂井善次の兄役として「夏」編で登場。また、いまをときめく伊藤沙莉が、タマ子の友人の友人役(名はユッコ)で「夏」編のワンシーンにのみ出演しており、車から身を乗り出すもロクに顔も姿も見えないことがのちに話題となった。 このように『もらとりあむタマ子』は何かと細かい逸話が多く、劇中でタマ子が読んでいる数々のマンガ作品にも注目が集まった。くらもちふさこの『天然コケッコー』(2007年に山下監督が映画化)や『東京のカサノバ』、渡辺ペコの『にこたま』、ねむようこの『午前3時の無法地帯』、新井英樹の『宮本から君へ』など。そしてエンドロールのあとでは、本番の撮影中にマジで寝てしまった前田敦子の、本気の寝起き姿がオマケ映像的に記録されている。 ちなみに山下敦弘は『化け猫あんずちゃん』を含め、計3回いましろ作品を映像化しており、最初は2008年、テレビ東京系のドラマシリーズ『週刊真木よう子』(企画は大根仁)で撮った挿話「中野の友人」(脚本は赤堀雅秋)。続いて2018年に向井康介の脚本で長編『ハード・コア』を映画化した。山下&向井のオリジナルとしては、青汁ならぬ「あかじる」という怪しげな健康飲料を売り歩くダメ青年を山本浩司が怪演した長編第2作『ばかのハコ船』(02)に、いましろカラーの影響が最も強く出ている。これら“いましろたかしスクール”から生まれた成果を、『もらとりあむタマ子』と併せてぜひ味わっていただきたい。 文:森直人(もり・なおと) 映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。 『もらとりあむタマ子』 Blu-ray ¥2,500 +税 DVD ¥1,900 +税 発売元:エムオン・エンタテインメント/キングレコード 販売元:キングレコード © 2013『もらとりあむタマ子』製作委員会
森直人(もり・なおと)