【NBA】ラッセル・ウェストブルックはナゲッツ行きが濃厚、ヨキッチ&マレーで完成されたチームは『異物』をどう取り込む?
昨シーズンは不在だったセカンドユニットの得点源に?
ラッセル・ウェストブルックはクリッパーズからジャズへとトレードされた。ジャズでは契約解除となり、その後はナゲッツと新たな契約を結ぶことが確実視されている。 NBAキャリア16年を重ねて35歳になったウェストブルックは、ウィザーズでの2020-21シーズンにトリプル・ダブルを38回記録したのを最後に下り坂に入り、レイカーズでの1年半で14回、クリッパーズでの1年半で1回と、もはや『ミスター・トリプル・ダブル』ではない。サンダー時代の爆発力を完全に失ったわけではないが、好不調の波がより激しくなり、一度リズムを乱すと目も当てられないミスを連発してしまう。彼がクリッパーズに来たのは親友のポール・ジョージがいたからで、ジョージが去ったクリッパーズに彼が残る理由はない。 ナゲッツは自分たちがドラフトして育て上げたニコラ・ヨキッチ、ジャマール・マレー、マイケル・ポーターJr.という強力なタレントを擁し、その力で2022-23シーズンに優勝を果たした。ヨキッチの契約が残るあと4年は十分に優勝を狙えるのだが、それと同時にサラリーキャップにはもう余裕がない。昨年オフにはシックスマンとして優勝に貢献したブルース・ブラウンを、今オフには超優秀な『3&D』のケンテイビアス・コールドウェル・ポープを引き留められなかった。 カルビン・ブースGMは「バックコートの補強は必須で、引き続き市場を調査する」と語っていたが、それがウェストブルックとなりそうだ。今回、年俸400万ドル(約6億円)の1年契約をジャズで破棄し、ナゲッツにはベテラン最低保証額での加入となるだろう。往年の爆発力を失ったとはいえ、ウェストブルックは強力なX-ファクター(秘密兵器)になり得る。 コールドウェル・ポープが抜けたシューティングガードの先発にウェストブルックを据えることは可能だが、レイカーズとクリッパーズで過ごしたここ3シーズンで、「長くプレーさせると自分勝手なプレーに走りがちだが、集中が持続する短い時間しかプレーさせなければいい」という起用法が定着している。先発は若いクリスチャン・ブラウンに任せ、セカンドユニットを引っ張る役割のほうがウェストブルックにとってもチームにとってもフィットしそうだ。 昨シーズンのナゲッツも強力なチームだったが、優勝した一昨シーズンに比べると、シックスマンとしてセカンドユニットの得点力を支えたブルース・ブラウン不在の影響が大きかった。ナゲッツはもともと選手層が薄く、昨シーズンはマレーとヨキッチを休ませるにしても、どちらかをコートに残さなければオフェンス力がガタ落ちとなってしまう。その時間帯を彼らが支えるのだが、第4クォーターの勝負どころを前に消耗してしまう問題を抱えていた。 ウェストブルックは堅実なコールドウェル・ポープの代わりにはならないが、ブラウンに代わってセカンドユニットを引っ張り、また退団したレジー・ジャクソンに代わって2番手のポイントガードを務めることは十分にできる。 ここ2シーズンのウェストブルックはスタッツをかなり落としているが、それは控えの役割を受け入れてプレータイムが減ったからで、36分あたりのスタッツは昨シーズンでも17.8得点、8.1リバウンド、7.2アシストと決して悪くはない。ただ前述の通りで長くプレーするとメリットよりもデメリットが目立つ傾向が強く、それはヨキッチとマレー中心のリズムを乱す要因にもなるため、ナゲッツとしてはウェストブルックにあらかじめ説明し、合意を得た上での獲得となるだろう。 そしてもう一つ、ウェストブルックがナゲッツにもたらすことのできるメリットは『勝者のメンタリティ』だ。ナゲッツには素晴らしい才能が揃っているが、すべてを出し尽くして目の前の1勝をもぎ取りに行く闘志を欠くことがある。指揮官マイケル・マローンが試合後に激怒するのは、本来のクオリティを出せない時ではなく戦う意欲を欠いた時で、それは勝った試合でもしばしば起きる。ウェストブルックがチームの闘志の火付け役となれば、ナゲッツにとっては非常に大きなプラスだ。 こう見るとウェストブルック獲得は、ナゲッツにとって良いことばかりのように思えるが、実際はそれほど簡単ではない。クリッパーズは彼をジャズにトレードすれば同じカンファレンスのライバルであるナゲッツの戦力になるのを分かっていながら、それでも彼を放出した。代わりに戦力とするのはクリス・ダンで、ウェストブルックより優れているのはディフェンスの堅実さぐらいだが、クリッパーズの選択には理由があるのだろう。 それでも、ナゲッツに取れる手段は限られており、ウェストブルック獲得は賭けではあるが現時点で実施できる最善の補強となる。すでに完成度の高いチームにウェストブルックという『異物』をどう組み込むか。新シーズンのナゲッツはその成否に大きく左右されそうだ。
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