台湾を包囲し「軍事演習」で威嚇…!中国を激怒させた台湾新総統の「許しがたい演説」と台湾人の「脅迫慣れ」
脅しに慣れてしまった、のか
中国は予想通り頼総統の就任演説への怒りを露わにし、3日後の5月23日から2日間、予告なしで台湾を包囲する形での軍事演習を行った。今回の演習は、2022年8月にアメリカのペロシ下院議長の訪台に反発して行われた軍事演習と違って弾道ミサイルの発射などはなかったが、出動する戦闘機やヘリコプターなどの映像に加え、中国から飛来したミサイルが台湾の北部や南部を直撃するCGなども盛り込んだ赤裸々な台湾への「脅迫」であった。 では台湾人は今回の軍事演習をどう受け止めたのか。台湾のベテランジャーナリストである元聯合報記者の盧世祥氏は、中国による台湾への武力行使の脅しは1995年以降たびたび行われ、ミサイルが飛んでくることもあったとした上で、台湾社会があまり驚かなかったのにはいくつかの理由が考えられると話す。1つは、演習が直接台湾の経済に影響しない場合、台湾人はあまり深く考えないという国民性の問題で、盧氏は中国が今後奇襲攻撃をかけるのに有利になると警戒する。もう1つは、今回の演習ではミサイルは飛ばなかったため、演習による脅迫の効果が逓減しているという。 筆者も、台湾人は中国共産党の脅しに慣れてしまったとの印象があるが、もし中国の脅迫について年中考えていたらノイローゼになるだろう。これは半ば無意識な自己防衛反応とも思えるが、「オオカミ少年」の物語でオオカミは最後にはやってきたので、警戒を解くことはできないし、実際彼らは外見は平静そうに見えても、「中国の脅威」が心の奥底に拭い去れない問題として潜んでいると感じる。
日本はとやかく言えた義理ではないが
筆者はむしろ、「平和ボケ」しているのは日本人の方ではないかと考えている。中国の呉江浩駐日大使は5月20日、東京の中国大使館で開かれた座談会の席上、「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになるでしょう」と発言した。これは日本の国会議員が大挙して頼総統の就任式に出席することへの警告だったが、「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」は武力使用の威嚇に他ならない。 しかも呉大使の発言は失言などではなく、その後5月23日の中国外交部記者会見の際に、呉大使の発言を林芳正官房長官が強く批判したことについて聞かれると、汪文斌報道官は「呉江浩大使の関連の立場表明は事実に基づき、道理は正しく言葉は厳格で、言葉が懇ろで思いやりが深く、完全に正当かつ必要なものだ」と答えている。ところが日本ではこのニュースは扱いがそれほど大きくなく、日本人の間でこれから中国との戦争を覚悟するのか、あるいは中国の脅しに屈するのかについての議論を聞くことはほぼない。 また、2022年以降、中国とロシアの海軍艦隊が日本列島を周回したり、中国軍とロシア軍の爆撃機が日本周辺の上空を共同飛行したりしたが、これも明白な示威行為だったのに日本人の間でどう対処すべきか真剣な議論を交わしているのを見聞きしたこともほぼない。肝心の国会でも、議論しているのはパーティー券の購入者を公開する基準額を20万円から10万円に引き下げるのか、5万円にするのかといった話ばかりだ。 台湾人のことをとやかく言えた義理ではない。 その軍事演習の最中、台湾人に中国に同調する動きがあった。つづく後編記事「五月天、蔡依林…台湾の人気芸能人が続々と『統一支持』を表明! そのウラにある中国共産党『台湾社会分断工作』」では、台湾各界の中国依存の姿を描く。
田 輝(ジャーナリスト)