変わりゆく鮨業界の「暗黙のルール」…人気のある鮨屋から〈安価なランチ〉が消滅したワケ
仲卸業者の世代交代
かつて鮨職人が徒弟制で修業していた頃、独立した弟子が自分の店を構えるという時は、親方が仲卸業者に「こいつの面倒を見てやってくれ」と紹介するのがひとつの儀式のようなものでした。その儀式によって初めて買うことが許される。そのくらい厳格だった時代もあると聞きます。 もちろん今はそんなことはありません。修業先の紹介がなくても問題なく魚は買えます。飛び込みで「売って下さい」と頼んでも、門前払いされることはありません。仲卸業者の方も変化してきているのです。その変化は築地から豊洲に市場が移転を決めた時から、より顕著になりました。 東京都と築地市場が協議機関として設けた『新市場建設協議会』が豊洲への移転を正式に決めたのが、2014年11月のこと。その時から、慣れ親しんだ築地を離れ新しい場所で商売をすることに不安を感じた仲買人が廃業を決めたり、引退したり、代を譲ることを決意したりして、仲卸業者の世代交代が起こります。30代、40代で後を継いだ人もいて、そうした新世代の中には、代替わりを機会に古い体質をリセットして、経営の合理化に方向転換しようとする人も出てきます。 そう。それまでの取引のあり方が「古い」と感じていたのは、実は鮨職人の側だけではなかったのです。 新世代は、お互いに会って話すことをそれほど重視していません。それよりもSNSを通じて会話した方が早いし、気を使わなくてすむからです。今は仲卸業者と鮨職人がLINEを交換するのは当たり前。魚の入荷の情報もLINEなら写真と一緒に伝えられます。鮨職人がそれに対して「買います」と返信すれば、数時間後には店に魚が配送されてくるというわけです。 もはや顔を合わせる必要も、直接魚を見る必要もない。SNSだけですべてがこと足りるのだから、毎朝魚河岸に行くのはただの時間のロス。その時間をおつまみの仕込みに充てた方がお客さんのためにもなる。それが常識になりつつあるのです。 早川 光 著述家