変わりゆく鮨業界の「暗黙のルール」…人気のある鮨屋から〈安価なランチ〉が消滅したワケ
魚を自分で選ばない鮨職人が出てきた
昼の営業がなくなったことで、それまでの常識では考えられなかったことも起こります。まず、魚河岸(中央市場)に足を運んで、自分の目で魚を選んで買う鮨職人が減りました。かつての魚河岸は早朝からたくさんの鮨職人で混み合っていたものですが、今は明らかに数が減っています。 閉店が深夜になったことで起床時間も遅くなったと書きましたが、さらに一歩進んで、魚河岸に行かないという職人が出てきたのです。昔の鮨職人が聞いたら、耳を疑うような話かもしれません。 魚河岸に行かなければ魚が買えないのでは? と、一般の人は思うかもしれませんが、実は電話一本でも注文することはできます。「こんな魚が欲しい」という希望さえ伝えれば、仲卸業者の方で見繕って、仕込みの始まる時間までに配達してくれるので、わざわざ足を運ばなくても営業にはなんの支障もないのです。“自分の目で魚を選びたい”というこだわりさえなければ。 鮨職人が朝早くから魚河岸に行くのは、自分の目で魚を選ぶということにプライドを持っているからです。そして、毎朝顔を出し仲卸業者と会話を重ねることで信頼を得て、より上質な魚を仕入れたいと考えているからにほかなりません。 鮨職人は基本的には相対取引、つまり仲卸業者とのマンツーマンの取引で魚を買います。おおまかな魚の値段はその日の相場で決まりますが、どの魚を売るかはその鮨職人と業者のそれまでの関係性によって変わります。わかりやすく言えば、仲卸としっかり関係を築いた鮨職人の方が質が高く状態のいい魚が買えるということ。売る方もプロですから、いい魚は見る目があって信頼できる人に売りたいと思うもの。だからこそみんな眠い目をこすって通い続けたのです。 でも今は、そうした人間関係のあり方を「古い」と思う人も出てきました。仲良くするために時間をかけるくらいなら、魚選びそのものを仲卸業者に“おまかせ”してしまった方が合理的だというわけです。