ベア650の始まりは「カリフォルニアの過酷な砂漠レース」【ロイヤルエンフィールド ベア650 海外試乗インプレ】
INT650をベースにスクランブラー化。ただし70%以上のパーツを変更
ベア650のすべてのカラーのサイドカバーには、小さく「INT(インターセプターの意味。日本とアメリカではホンダの商標となっているため、INTの車名で販売されている)」の文字が書かれている。1960年のエディさんの栄光をきっかけにアメリカでの販路を拡大したロイヤルエンフィールドは、インターセプターと名付けたスクランブラーを登場させたのだ。発売当時は736ccだったが、2017年にINT650が発表された。 ベア650はこのINT650の基本設計は踏襲しつつ、70%以上のパーツを刷新。タンクが共通のためINT650の面影が強く残るが、スクランブラーに合わせたデザインはとても秀逸。またフレームはダート走行と重量を増した倒立フロントフォークやホイールに対応するためにフロントまわりにガセットを追加。さらにパニアケースを装着することを考慮してリヤまわりのデザインも変更している。 前後ショーワ製のサスペンションはストロークを伸ばし、ダート走行に対応。ホイールはフロントに19、リヤに17インチをチョイス。タイヤはロイヤルエンフィールドが初めて採用するインドのMRF製のブロックパターンとなっている。ブレーキは前後ディスクが専用品でダート走行用にリヤのABSをカットすることが可能だ。 エンジンは同社が大切に育む648ccの空冷パラレルツイン。パワーに関しては、47.4ps/7150rpmで、欧州のA2ライセンスがあるためこれ以上あげることができないそうだが、トルクはINT650よりも8%向上させ5.76kg-m/5150rpmを発揮。また、マフラーは同エンジン初の2in1集合で見た目のスポーティさを実現。もちろん軽量化にも貢献しているのだが、他の部分の重量増もあり、車重は214kg(燃料90%)とそれほど軽くはない。
オンもオフもスクランブラーらしい抜群のバランスで走破
走っていると47.4psのバイクとは思えないほどよく走るし、スクランブラースタイルであることを忘れさせてくれるほどコーナリングが『速い』し『楽しい』。走るほどに皆のペースがグングンと上がっていくような感じで、先導もそれに釣られるようにアベレージを上げていく。 市街地を早々に抜け、高速道路では4、5、6速でスロットル全開を確認。風圧に耐える必要はあるものの直進安定性は抜群だった。その安定性はワインディングでも健在。リーンやブレーキングでは大径ホイールらしいおおらかさが安心感をもたらし、直立付近から向きを変えるシーンでは鋭さを披露。しっかりと向きを変えた上で旋回に落ち着くと前後タイヤのグリップ感が訪れ、車体を起こしてスロットルを開けると気持ちよさと後輪に確実なグリップが生まれるのだ。 立ち上がりではエンジンの高回転を使っても鋭さを伴ったまま安定感を持って加速。この走りが冒頭の『速さ』に繋がっているのだ。切り返しなどではフロントの立ちの強さを感じるものの、それは手応えともいえ、ライダーが操作している実感を高めてくれる。 ロイヤルエンフィールドの650シリーズは、それぞれのスポーツ性を驚くほどしっかりと磨き込んでおり、それはベア650も同様だった。ベア650に速さを期待している人はそれほどいないだろう。でもそこをしっかりと作り込むのがロイヤルエンフィールドなのだ。 ワインディングを抜け出し、低い回転を使いながらベア650の走りを噛み締める。カリフォルニアの乾いた景色に馴染むデザインを愛でる。ベア650は想像以上に鷹揚なバイクだった。歴史的背景やそこに宿る精神もとても良い。全てを知るととても愛おしい存在に映る。カリフォルニアに来ないとわからないことばかりだ。 荒野を見渡すと、そこがとても神聖な場所に見えた。僕はエディさんの栄光をリスペクトしながら、もう一度スロットルを大きく開けた。
オリジナリティ溢れるカラバリも斬新!
トゥー・フォー・ナインは、「ビッグ・ベア・ラン」とエディさんの栄光からインスピレーションを受けたカラー。♯249はエディさんのゼッケンだ。ワイルド・ハニーは60~70年代のレースシーンをイメージ。ゴールデン・シャドーは高級感があり、クラシックテイストを重要視するライダーにも支持されそう。ボードウォーク・ホワイトとペトロール・グリーンはビーチにインスパイアされているとのことだ。 また倒立フロントフォークはカラーによってブラックとゴールドがあり、シートも様々なカラーを用意している。ポップにもシックにもライフスタイルを楽しめるカラーは、近年のロイヤルエンフィールドの大きな魅力となっている。
小川 勤