【解説】中国EV覇権への警戒感と米中欧それぞれの思惑…米国主導の国際秩序守りたいアメリカと必要以上の摩擦避けたいEU・中国
中国へのアメリカの警戒感と危機感
一方、米国の対中意識は欧州とは異なり、米主導の国際秩序に挑戦し、その現状打破を目指す中国に先端テクノロジー分野での主導権を渡さないという警戒感、危機感というものが滲み出ている。 バイデン政権は中国製EVの関税率を100%としたが、それ以外にも車載用電池やアルミニウムの関税率を7.5%から25%に、太陽光発電に使用される太陽電池の関税率を25%から50%に引き上げるなどし、自動車や家電製品などに幅広く使われる旧型のレガシー半導体や医療用品など引き上げ対象となり、その規模は日本円で総額2兆8000億円ほどになる。 しかも、中国製EVに対する関税を100%にしたというが、今日米国が輸入するEVのうち中国製は2%ほどと言われ、決して整合性のある判断とは言い難く、中国をけん制するための政治的動機によるものと言えるだろう。
秋のアメリカ大統領選の影響も
また、秋の大統領選挙で戦うトランプ氏が中国製品に対して一律60%の関税を課すなどと主張していることから、100%というブランドを国民に向けアピールする狙いも見え隠れする。いずれにせよ、米市民の間では中国警戒論が広がり、対中強硬姿勢を示すことが支持拡大に繋がる状況になっており、バイデン、トランプのどちらが勝利しても来年以降も米中の貿易摩擦が続くことは間違いない。 米国は今後も安全保障という国益に関係する、国際秩序を主導する米国の地位を脅かす範囲では、躊躇なく中国に先制的な経済攻撃を仕掛ける可能性が極めて高い。 一方、中国にとって秋のアメリカ大統領選は単なる通過点に過ぎない。それによって米国の対中姿勢は大きく変わるものではないので、既にその前提に立って米中関係を考えているだろう。 また、米国が先制的な経済攻撃を仕掛ければ、中国はそういった米国の行動を非難するだけでなく、米国は自由貿易に反する行動をとり、保護主義的な動きを加速化させているなどと欧州やグローバルサウスの国々にそれを強く訴え、自らに有利な国際環境の整備に努めることだろう。 【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】
和田大樹