玄米は「からだにいい」と信じている人こそハマりやすい「食べ物の微量成分」という免罪符
食品中の微量成分「機能性成分」に期待しすぎ!?
炭水化物・タンパク質・脂質の三大栄養素にビタミンと無機質を加えて「五大栄養素」とよぶことは、義務教育の段階で誰もが学びます。 これら五大栄養素を食事から適切に摂取することを心がけていれば、それ以外のわずかに必要とする物質はだいたい付随してきます。ところが現在、五大栄養素を食事から適切に摂取することよりも、ごくごく微量に必要な物質、いわゆる「機能性成分」に過剰なまでの関心と期待が集まっている状況が生まれています。 エネルギーや栄養素は、自分の体に必要な、適正な量を摂取することが大事です。多すぎても少なすぎてもいけません。 不足すると発育不良ややせ、生理機能不全や感染症への抵抗力の低下といった問題を引き起こします。 栄養失調のために感染症にかかりやすくなるという状況は、今の日本ではあまり考えられないことですが、発展途上国ではこんにちにおいてなお大きな問題となっています。そして、食べるものがたくさんある日本を含めた先進工業諸国においても、偏(かたよ)った食事法にのめり込んだ人々が自らを、あるいは乳幼児を栄養失調状態に追いやって、健康状態を悪化させている事例が存在します。 一方で、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回る状況が継続すると、肥満やそれに伴う健康障害が起こることは周知の事実です。そして、ビタミンや無機質等の栄養素も、余計に摂りすぎれば過剰症が起こるものもあります。繰り返しますが、多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけないのです。適正量を摂るーー何よりもこれが大切なことです。 ところが世の中の関心は、食品中の微量成分、いわゆる「機能性成分」に向けられています。そしてその「機能性成分」を摂取すれば、あたかもその「機能性」が得られるかのような大いなる誤解が蔓延しています。特にこの30年ほどは、その蔓延を助長するような制度がつくられてきました。
制度化された機能性幻想
2015年4月から、「機能性表示食品」という新しい制度が始まりました。食品成分に対する「機能性幻想」を制度化したものといえるでしょう。「食品は五大栄養素以外にも多様な機能性成分を含んでいて、生体機能の調節や生活習慣病予防の機能があることがわかってきている。だから、それらを積極的に摂取すると健康になれる」という論です。 食品には三つの機能があり、エネルギーや栄養素のはたらきを一次機能、嗜好面でのはたらきを二次機能、生体調節系や疾病予防でのはたらきを三次機能とする「食品機能論」は、1980年代半ばに登場しました。ここでいう三次機能に関わる食品中の物質、すなわち、生活習慣病などを予防し、疾病リスクを軽減するとされる食品成分が「機能性成分」であり、栄養素や嗜好成分ではありません。 では、機能性成分を含む食品を食べれば、私たちの体内でその機能性が発揮されるのでしょうか? たとえば、食品「A」が物質「B」を含んでいて、「B」の機能性として「Bは、厳しい環境や外敵から身を守る生体防御のためにつくり出された物質なので抗菌作用があります。また、強い抗酸化作用もあり、発がんを抑制する効果や老化防止作用、毛細血管を丈夫にする作用、抗アレルギー作用等が報告されています」という説明があったとしましょう。 それに続くのは、「だから『A』には抗菌作用や強い抗酸化作用、発がんを抑制する効果や老化防止作用、毛細血管を丈夫にする作用、抗アレルギー作用がある」というロジックです。 単純に信じてしまいそうですが、ここで考えなければならないのは、列挙された物質「B」の「機能性」が、どのような実験条件で、どのような量をどれくらいの期間、与えたときに発現するものなのかを冷静に見極めることです。はたして、常識的な量の「A」を食べることで、その「機能性」は発揮されるのでしょうか? おそらくそれはありえないでしょう。常識的な摂取量に、その「機能性」を発揮する量の物質が含まれていたら、逆に怖ろしいことです。