小林聡美が「新涼」をテーマに詠んだ「幟」が、俳人・堀本裕樹の「旗」に転化されて。デ・キリコの絵は2度の大戦とコロナも超え
俳人の堀本裕樹さんが、作家や俳優など28人の才人と一つの季語をテーマに往復書簡形式のやり取りを行い、それを1冊にまとめた『才人と俳人』(集英社)が刊行。はじめて俳句に触れる人から愛好家まで楽しめる内容に。今回は、俳優・小林聡美さんと、「新涼」をテーマに詠んだ一句をご紹介します。 * * * * * * * 〈季語〉新涼 新涼や寄席に幟(のぼり)のはためける 聡美 秋涼しデ・キリコの旗永久(とわ)に靡(なび)く 裕樹 ◆小林聡美から 今年2020年は春から地球レベルで波乱含みな世の中だった。夏の暑さも年々命の危険を感じるほど厳しくなっているし、もういい加減、経済経済といってやたらと大きなビルを建てたり、必要のない電光掲示板とかを街中に点滅させるのは控えてくれたらいいのに、と東京の片隅で小さな拳をあげている。 街中が外出自粛となったときの、あの空の青さ。それはまさに経済活動というものが一斉に停止したことで、取り戻すことができたものだったのではなかろうか。 リモートワークでいつもより忙しかったというひともいたに違いないが、急に時間がたっぷりできて、遊歩道や公園を散歩したりランニングしたりするひとたちの、どこか充実した雰囲気。みんながちゃんと休むことは地球にも生きものにもいいことなんだな、と思ったものだ。
◆本物を味わいたくなる その間にも、私はライブ配信で演劇や音楽を楽しみ、オンラインで句会に遊び、ズームでヨガ教室にも顔をだしてみた。 それらは家に居ながらにして十分楽しめる新しい体験で、とても新鮮だった。しかし、それはそれとして。 そろそろ本物を味わいたくないですか。 地球にも生きものにもたいへんな季節をなんとか踏ん張ってきたけれど、今、かつてみんなで同じ空間で感動を分かち合えたことが、懐かしくてしかたがない。 厳しい夏の暑さを過ぎてふと感じる涼しさにほっとするように、そろそろ私たちにも、そんなほっとするリアルな時間が欲しいところだ。はためく寄席の幟は、そんな憧れの象徴として。
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