フローティング・ポインツが語る音楽制作とレコードディグの原点、宇多田ヒカルとの共同作業
レコードディグの哲学、宇多田ヒカルとの制作
―私は2022年、日本でのDJツアーに参加しました自分が今まで経験した音楽体験で間違いなくベスト1です。今もよく思い出して、あの夜にあなたが流したヨランダ・アダムスやシェイエン・ファウラー、Posijなどの楽曲を聴き返します。 サム:シェイエン・ファウラーとPosij……まったく別世界にいる二人じゃん(笑)! シェイエン・ファウラーは、ネイティブアメリカンのソウルシンガー。Posijはたしか20代くらいのベルギー人で、すばらしいエレクトロニックミュージックを作っているプロデューサー……君はかなり幅広いミュージックテイストを持ってるね(笑)。 ―どうして5時間以上もオーディエンスを惹きつけて離さない楽曲を、古今東西のライブラリからセレクトができるのですか? サム:レコードショップやチャリティショップでディグって、ウィスコンシンの中心地、南フランスでディグって、Bandcamp、Discogs、SoundCloudでディグって、友人に今ホットな音楽をメールしてもらって、ラジオを聴いて……いつでもどこでも探し回ってるからかな。でも、最終的にはショップに足を運ぶのが一番面白い音楽を発見できる。未知の世界に連れて行ってくれるのはやっぱり人間だよ。AIやアルゴリズムに人間の創造力が脅かされるって騒がれているけど、僕は心配していない。コンピューターでは理解できないものを見せてくれるのは人間だから。 ―最近、手に入れて興奮したレコードはありますか? サム:(スマホで検索しながら)これこれ! Ohio Penitentiary 511 Ensembleの『Hard Luck Soul』。オハイオの刑務所の受刑者のレコードなんだ。実は昨日買ったばかりで、聴くのが楽しみ。 ―どこで買ったんですか? サム:渋谷のHMVだよ。70年代のアメリカでは刑務所内でたくさんレコードが作られてた。エッジ・オブ・デイブレイクもその一つ、すばらしいソウルレコードだよ。当時は刑務所でレコーディングの許可がおりていて、囚人たちにとっては特別なものだった。そのチャンスはたった1回だけだから、すごくエキサイティングなものだったみたい。それは昔のレコード。最近のお気に入りのレコードは、何があったかな……ジェイミーxxにカリブー。彼らの最新作はすごくよかったよ。デモをたくさん送ってくれたんだ。 ―ジェイミーxxのアルバムはどこがよかったですか? サム: 昨日アルバムを受け取ったばかりで、まだ全曲は聴けてない。シングル曲と、あとは一緒にDJをした時に聴いただけ。ジェイミーの作品がすばらしいのは、スタイルを確立しているところ。風変わりで、すばらしいダンスミュージック。ダンスフロアのムードが保たれていながら、彼のグルーヴが完全に漂っている。すごくいい意味でユニークな奇妙さがある。別次元へと連れていってくれるところが最高だよね。 ―宇多田ヒカルさんも『Cascade』にクレジットされているそうですが、彼女は具体的にどのような貢献をしたのでしょうか? サム:最後のトラック(「Ablaze」)で歌ってるんだ。 ―そうなんですか! サム:ああ。テクスチャーを少し与える程度でかなり静かだけどね。彼女だって分かるパートがほんの一瞬ある。でも、ほんの少しだよ。彼女とはよくロンドンで遊んでる。トラックに一音だけ何か加えたくて、彼女に頼もうと思ったんだ。彼女はその一音のために歌ってくれた。これも一回録りだったね、ステラと同じ……まさにプロフェッショナルだよ。 ―宇多田さんの「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」は国内外で絶賛されましたが、あなたはどういった貢献をされたんでしょうか? サム:その曲は一緒にプロデュースした。僕のスタジオで作ったんだ。何か一緒に作りたいねって話してて。曲は彼女がすでに用意してたからそこにドラムを足して、80年代の日本製のベースラインマシン、ローランドのTB-303でメロディを作った。あの曲に日本の老舗のベースシンセサイザーを使うのはいいアイディアだと思ったし、うまくマッチした。あれってかなり長い曲だよね(笑)! --- フローティング・ポインツ 『Cascade』 発売中 CD国内盤:ボーナストラック追加収録 初回生産限定Tシャツ付きも発売 ※来日ツアーが決定、詳細は近日発表
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