時計の針進めた第一生命Hの対抗案、日本のTOB市場は新たな局面に
(ブルームバーグ): 第一生命ホールディングスは12日、企業向けの福利厚生サービスを手掛けるベネフィット・ワンに対する株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。大手金融機関による異例の対抗TOBは、競争性が低いとも指摘されてきた日本のTOB市場が新たな局面に入ったことを印象付ける案件となった。
「企業買収全体の時計の針を進めた」。企業の合併・買収(M&A)法制に詳しい学習院大学の星明男准教授は、今回のTOB成立の意義をこう語る。日本での対抗買収に関する経営者の意識面でのハードルは、買収側・被買収側の双方で下がってきているとして「今後、上場会社の買収案件では、常に対抗買収提案があり得ることを想定して計画を立てる必要がある」との認識を示す。
経済産業省の資料によると、日本ではTOBがファンドや経営陣による買収(MBO)での非公開化に使用される例が多く、欧米と比べた同意なきTOBや競合的TOBの比率は低い。同省が昨年8月に公表した企業買収における行動指針では、企業価値向上と株主利益確保の双方に資する買収が活発に行われれば、業界再編の進展や資本効率の低い企業の健全な新陳代謝にも資すると促した。
数週間で対抗案まとめる
第一生命Hの発表資料などによると、同社はベネフィトとの資本業務提携を選択肢の一つとして考えていたが、具体的な買収検討段階にはなく、打診もしていなかった。昨年11月のエムスリーによるTOB公表によって、ベネフィトの他社との資本業務提携の意向と親会社であるパソナグループの株式売却意向を把握し、数週間で対抗案をまとめ上げた。
第一生命Hが注目したのは、ベネフィト株を51%保有するパソナGがエムスリーと合意したTOB応募契約の中に「より高い価格での対抗提案があった場合には応じることができる」と書かれていた点だ。
学習院大の星准教授は、横やりと否定的に捉えられるより、より良い買収条件を提示することが「肯定的に捉えられるとの読みがあったのでは」と指摘。伝統的な大企業にとっても「対抗買収提案しやすい事案だった」との見方を示した。