なぜ「ジョブ型雇用」は機能しないのか? その“弱点”
日本企業においてジョブ型雇用(以下、ジョブ型)に対する注目度が高まり、移行を進める企業も増えています。 【その他の画像】ジョブ型雇用のデメリットを補う方法は? 先の新型コロナ禍では、年功序列、曖昧(あいまい)な職務定義など、これまでの日本型雇用慣行の欠点や限界が一気に顕在化してきました。そしてそれに替わる新しいやり方として、各人の職務内容を明確に規定し、専門家としての貢献を求めるジョブ型への期待が高まっているのでしょう。 とはいえ、ジョブ型も万能ではありません。ジョブ型の制度へと移行した会社で働いている方々と実際に話をすると、ジョブ型導入への困惑の声、ジョブ型のデメリットなどを指摘する声が多く聞かれます。 例えば、次のような意見です。 ・自分の職務範囲に集中した方が得だと考え、周囲と連携や協調が弱くなった ・自分のスキルアップへの関心は高まったが、チームメイトに対して関心が薄くなった ・会社のビジョンや方向性などへの関心が薄れ、目の前の仕事に過度に集中してしまう ・ジョブ型の制度が導入されたが、みんなの仕事のし方は変わっていない。何のための制度変更なのか分からない ジョブ型は、確かに年功序列、配置転換の難しさ、専門家が育ちにくいなど、これまでの日本型雇用慣行の弱点を補うという観点からは、ある程度効果的と言える側面があります。また、ジョブ型は、個人に対してスキルアップのモチベーションを喚起するなど、さまざまなメリットもあります。 しかし、当然ながらジョブ型にもデメリットがあります。そのデメリットをしっかり認識しないままに、流行に乗ってジョブ型移行を進めることは、実は大きなリスクを伴うのです。ジョブ型を機能させ、組織に根付かせるためには、そのメリットを生かすと同時に、デメリットを補うための対策が必要です。具体的に、どのように考えればいいのか、さっそく見ていきましょう。
ジョブ型雇用の弱点を補う術は?
ジョブ型のデメリットは、ひとことで言うと「人と人のつながり」が弱くなるということに尽きるでしょう。ほとんどの仕事は一人ではなくチームで行われます。どんな組織でもパフォーマンスを高めるためには、土台として「人と人のつながり」や「チームワーク」が不可欠なのです。 「人と人のつながり」が弱くなると、チームで仕事をしている感覚が希薄になり、ビジョンなどの求心力が機能せず、個々人の専門性や能力がバラバラに発揮され、全体の成果につながりません。いつもボタンを掛け違っているような状態です。また、互いに対して無関心になりやすいことから、組織の雰囲気はギスギスし、お互いの力を生かすどころか、互いに力を削ぎ合っているかのような殺伐とした状態になりかねません。 実はジョブ型の弱点である「人と人のつながり」という特徴を大切にしていたのが、これまでの日本企業の雇用慣行である「メンバーシップ型」です。メンバーシップとは共同体という意味で、まず入社した人はその企業=共同体の一員として迎え入れられます。どういう仕事をするかは後で決まります。仲間としてのつながりは強く、愛社精神を持っています。 このメンバーシップ型と終身雇用、年功序列などの制度が結びつき、高度成長期の日本企業の躍進を支えるひとつの土台となっていました。 そういう意味で、ジョブ型の弱点である「人と人のつながり」を補完するためには、ジョブ型とメンバーシップ型を“ハイブリッド”することが効果的だと筆者は考えています。