ここまでドロドロな人間関係となると、もはやコメディーレベル? なドラマとは。
ニコール・キッドマンに、絶大な信頼を寄せている人は多い。実験的映画から超大作まで幅広く活躍し、アカデミー賞、エミー賞、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を獲得。近年ではプロデューサーとしても手腕を発揮し、女性監督支援や慈善活動など社会問題の解決にまで尽力し、女優として、人として、世界に影響を与えつづけている。そんな彼女が選んだ作品なのだから、面白いに決まっている! その予想は、今回も裏切らなかった。 舞台は、ハーマン・メルヴィルの長編小説『白鯨』の舞台としても知られ、著名人や富裕層が夏の避暑地として訪れるナンタケット島。人気ミステリー作家のグリアと、先祖代々ナンタケットに広大な土地を所有する名家ウィンバリーの跡取りタグは、3人の息子にも恵まれ、仲睦まじい夫婦だ。 明日は、次男ベンジーの結婚式。家族や友人らがウィンバリー家の豪邸に集まり、リハーサルディナーを楽しんでいた。しかし、祝福モードから事態は一変……。結婚式当日の朝、ウィンバリー家前のビーチで女性の死体が発見され、その場にいた全員が容疑者!? 誰もがうらやむセレブ一家の裏の顔が、次々と明るみになってゆく――。 ナンタケット島は、豊かな自然に囲まれ、オンシーズンにはアメリカ中のセレブが夏を過ごす場所として、ユートピアのように見えるが、住人にとっては顔なじみも多く、だれかのうわさ話など一瞬にして知れ渡ってしまうディストピア的側面があるとも言える。その土地柄のせいか、ウィンバリー家の人々は、セレブと言っても都会のセレブらとは違い、どこか古臭い価値観を持っている。 プライドの高いグリアは世間体を常に気にし、完璧な家族を装うためならなんでもするタイプ。しかし、表向きいい人を演じていても、言葉の節々にどうしても意地の悪さが出てしまう。朝食にパンを食べているアメリアに対し、「ウエディングドレス、入るかしら?」と悪気なく言ってしまうくらいだ。 息子たちも同様、裕福ではない人に対して無意識に、まるで自分たちとは別の世界の人間かのような振る舞いをする。そのくせ人生の計画性もなく、マイペースで、地に足が全くついていないのだからなんとも滑稽だ。 視聴者は、常識的な倫理観を持ち合わせているアメリアと共に、犯人を探すべく観進めていくこととなる。取調室で次々に暴露される不貞行為の数々、嫉妬と憎悪にまみれた人間模様、誰もが犯人かと思わせるような群像劇……。王道プロットとは言え、幾度となく予想を裏切る展開に、惑わされてしまう。 王道プロットながらも、一気見不可避なドラマに仕上げたのは、間違いなく豪華キャストの手腕だろう。グリアを演じたニコール・キッドマンに加え、アメリアを演じたのはNetflixオリジナルドラマ『瞳の奥に』が記憶に新しいイヴ・ヒューソン。金銭目的で長男トーマスと結婚したアビーを演じたのはダコタ・ファニング、アメリアの親友を演じたのは『NYガールズ・ダイアリー』でおなじみメーガン・フェイヒー。 ここまでドロドロな人間関係となると、もはやコメディーレベルではなかろうか。毎話冒頭に、インド映画でよく見る出演者全員によるハッピーなダンスシーンを取り入れているが、回を重ねていくうちに、観ているのがつらくなっていくなんとも粋な演出にもご注目。 『理想のふたり』(全6話)はNetflixにて配信中! Text:Jun Ayukawa Illustration:Mai Endo
朝日新聞社