ひきこもりの兄を持つ57歳男性「不妊治療をやめたら、1つ道が閉ざされた感じがした」家族にぶつけた怒りの矛先…突然の父親の死から向き合った初めての人間関係
みんなに見守られ、花を育てる兄
父親が亡くなったことで、兄の気持ちにも変化があったのだろう。認知症の症状が出てきた母親のため、間野さんが介護用品やお米などを通販で買っていたのだが、兄が店舗に買いに行ってくれるようになった。 母親が要介護4になり自宅にケアマネージャーやヘルパーが来ても、最初のころ兄は2階の自室から降りてこなかったのだが、じょじょに部屋から出てきて話をするようになった。現在93歳の母親の食事はヘルパーが作ってくれるので、自分が食べる野菜炒めなど簡単な料理もするように。 父の死後、荒れていた庭の手入れも自発的に始めた。色とりどりの花を咲かせるようになり、それを見た近所の人とも二言三言、話ができるようになったのだという。 それまで兄は外部との接触がまったくなかったわけではない。 ひきこもって10年ほど経ったときに、ひきこもりの相談会が長岡市でも始まり、両親と一緒にしばらく通って精神科の医師につながった。精神科クリニックには今も通院しており、数年前からは障害年金も受給している。 ひきこもった経緯などを聞いていると、間野さんの兄は先天的な脳の偏りである発達障害の傾向があるようにも思える。そう指摘すると、間野さんは少し考えてこう答えた。 「兄は繊細な部分とそうでない部分が両極端ですね。花の世話はよくするけど、それ以外はほったらかしで整理整頓ができないし、確かにデコボコはあるかもしれない。でも、別に発達障害って言わなくても、そういう特徴がある人なんだと思えばいいんですよ。障害年金を受給しているから何らかの精神疾患はあると思うけど、診断名は忘れちゃった。 弟から見た兄はセンスのいい人です。昔から兄の部屋には筒井康隆、星新一とか文庫本がずらっと並んでて。『巨人の星』や『あしたのジョー』、石ノ森章太郎のマンガやビートルズ、サイモンとガーファンクルなどレコードもいっぱいあった。中学生のころはラジオ作りに熱中していたので工具や部品だらけで、それがカッコよく見えたんですよ。 今日も晴れているから、兄は夕方まで土いじりしていると思うけど、かつてラジオを作っていた風景と、重なるんですよ。今はもう、兄を背負っているっていう感覚はないですね」 そして、間野さんはにこやかに笑いながら、こう続ける。 「最近思うのは、結婚相手に、うちの兄、いいんじゃないかなって(笑)。できることは少ないけど、やさしいですよ。それだけじゃダメですか?」 取材・文/萩原絹代
萩原絹代
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