ひきこもりの兄を持つ57歳男性「不妊治療をやめたら、1つ道が閉ざされた感じがした」家族にぶつけた怒りの矛先…突然の父親の死から向き合った初めての人間関係
周囲の人にカミングアウト
「お父さんが死んだ」 父に謝罪された3か月後の2017年2月、間野さんは30年ぶりに兄と話した。受話器から聞こえてくる兄の声は、昔とまったく変わっていなかった。 「父が死んだことよりも、ああ、お兄さんがしゃべってると思って、ビックリしましたね」 父は首の骨を痛めた後、だいぶ体が弱っていた。雪の降る寒い日に風呂から出てこないので母親が様子を見に行ったら、湯船で意識を失っていたそうだ。享年92歳だった。 当初、葬儀は親族だけでやろうと思っていたのだが、50年来の付き合いのある隣家の人に伝えたら、町内の人たちも来てくれた。香典返しを持って各家にあいさつに行ったとき、間野さんは兄がひきこもっていることを初めて伝えた。 「それまでは帰省して近所の人と会っても、兄のことに話題が及ぶのが嫌ですぐ家に入っちゃってたんです。皆さんも気付いていたと思うけど、長年見て見ぬふりしてくれてたんじゃないかな。 ふり返ってみると、何が一番辛かったかと言うと、兄の存在を恥だと思って隠していたことなんですね。話せなかったことで僕も地元で人間関係を作れなかったんです。 思い切って話したら、お隣の方からは兄の様子を知らせる手紙を頻繁にいただくようになりましたし、同級生とも前は『会いたくないなー』という感じだったのが平気で会えるようになった。今は自分の足元から人間関係を作り直している感じがして、楽しくてしょうがないです(笑)」 間野さんは他のひきこもりの人たちの話も聞いてみたくなり、ひきこもりの居場所や家族会に顔を出すようになった。2年前からOSDというひきこもり支援団体の手伝いもしている。 OSDは「O(親が)S(死んだら)D(どうしよう)」の略で、弁護士、司法書士、不動産鑑定士、カウンセラーなど専門家が、自立への支援から親亡き後の相続など多岐に渡る相談に乗っている。間野さんは事務局マネージャーを務めるかたわら、自分の体験談を講演で話したりしている。 「僕のスタンスとしては、ひきこもり当事者には問題はない。当事者の外側に何らかの問題があるから、ひきこもりという状況に追い込まれてしまうと思っています。そういう風に考えられるようになったから、みんなの前で話すことも平気になったのかな」
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