「驚き桃の木20世紀」を即座に英訳する通訳の腕前、裏話に見る厳しさと魅力
ウイットに富み、頭の回転が早いふなっしーになりきる
通訳という仕事において、橋本さんは、「何をどう訳すか」とともに、「どのように話すか」という点にもこだわっている。「話をされる方の個性や、お国柄、持ち味は、言葉づかいや話のスピード、声のトーン、テンションなどの話し方に色濃く現れます」。こうした言葉以外の要素が、通訳というフィルターを通して失われると、聴衆の心に響かないのではないか、と懸念する。 そのこだわりが端的に現れたのが、2015年3月に外国特派員協会で行われたふなっしーの記者会見だ。ピコ太郎さんの会見と聴き比べると、声のトーンや言葉のスピードなど、橋本さんの話ぶりが明らかに違っている。 準備段階で、橋本さんは、ふなっしーの世界観や、ゆるキャラという日本独特の現代文化をどうすれば世界に伝えられるか悩んだ結果、いっそのこと、ふなっしーになりきろうと決めた。また、英語圏のものの見方から、ここが不思議で理解できない、あるいは、ここは知りたいはずと予想し、それに対してどう通訳するかを考え抜いたという。 話し方では、英語の文末になっしー(nasshi)をつける練習を繰り返し、自然に口に出せるようにして本番を迎えた。「ふなっしーは頭の回転が早く、語彙も豊富でウイットにも富んでおりついていくのが大変でしたが、その魅力は伝えられたのではないかと思います」。 橋本さんは、「聞こえてきた言葉をそのまま訳すだけなら、翻訳機でもできるんです」と通訳という仕事の難しさを語るが、その裏には通訳としての矜持がある。 『シンギュラリティは近い―人類が生命を超越するとき』という著書もあるAI開発者の米レイ・カーツワイル氏から、人工知能関連のシンポジウムでこう言われたという。「君たちの仕事は、AIで置き換えられる最後の仕事だ」。 ---------- 橋本美穂(はしもと・みほ) ── 米国テキサス州ヒューストン生まれ。幼少期をサンフランシスコで過ごす。1997年慶應義塾大学総合政策学部卒業後、キヤノン株式会社に総合職として入社、コピー機等の事業企画を担当。企業に勤めながら通訳者養成学校夜間コースを修了。2006年より日本コカ・コーラ株式会社の企業内通訳者として通訳を開始。現在、フリーランスの通訳者、翻訳者、および通訳者養成機関の講師として活躍中。 (取材・文:具志堅浩二)