性教育メディアのイベントに登壇。鈴木えみさんが語る、子どもの相談のハードルを下げる工夫とは?
11月28日、性教育メディア「セイシル」の5周年を記念した報道関係者向けトークイベントが開催。第一部には、モデルでクリエイターの鈴木えみさんが、第二部には、“人間と性”教育研究協議会(性教協)代表幹事の水野哲夫さんが登壇した。大人向けの性知識メディア「おとなセイシル」のオープンについても発表があった。 〈写真〉性教育メディアのイベントに登壇。鈴木えみさんが語る、子どもの相談のハードルを下げる工夫とは? 11月28日、性教育メディア「セイシル」の5周年を記念した、報道関係者向けトークイベントが都内で開催された。 「セイシル」とは、株式会社TENGAヘルスケアが運営する10代向けの性教育Webメディア。教員や医師から性教育教材のリクエストがあったことや、SNSを通じて10代からの悩みが多く、解決方法が少ないことから2019年12月に立ち上げられた。現在では、年間600万PV、380万人のユーザーが訪れるサイトとなっている。 セイシルでは「性のモヤモヤ」を相談することができるが、5年間で1万5000件のモヤモヤが届いている。モヤモヤの回答者には、医師や看護師など医療関係者のほか、大学教員、弁護士、性教育従事者など、80名以上のさまざまな分野の専門家が協力。一つの悩みにつき、複数の回答があり、子どもたちは一番納得する答えを見つけることができる。また、ポップでかわいらしいイラストを用いることによって、性というテーマへの抵抗感を減らしていることも大きな特徴だ。 ■鈴木えみさんが性教育に興味を持ったきっかけ イベントは二部制で実施。第一部はモデルでクリエイターの鈴木えみさんが登壇。鈴木さんは1999年に雑誌「SEVENTEEN」の専属モデルとしてデビューし、数多くのメディアで活躍。プライベートでは一児の母。2024年には性教育の普及を目指したサポート団体「Family Heart Talks」を発足し、講演イベントなども行っている。 鈴木さんが性教育活動を始めようと思ったきっかけについては、「私自身が小さい頃に、ちょっと怖い目にあったり、嫌な思いをしたことが何度かあって。大人になって振り返ってみて、そのときにもし自分に知識があったならば、心のモヤモヤが残らなくて済んだんじゃないかと悔しい気持ちになった」と打ち明けた。 保護者が子どもに悩みを打ち明けてもらいやすくなるコツについて問われると、「なんでもとにかく話をしてくれる環境がすごく大事だなって思っている。性に関する質問が出たときに、否定的な態度をとったり、はぐらかしたりしないこと。なるべくフラットな関係性がキープできていると、いざ悩みがあったり、トラブルに巻き込まれてしまったかもしれないときに、相談しやすくなるんじゃないかなと思う」と回答。 鈴木さんには小学校5年生の娘さんがいて、相談のハードルを下げるために、毎日ドライヤーの時間に、その日にあった嬉しかったことや嫌だったことをお互いに発表し合うことを習慣化させているという。鈴木さん自身はなるべく小さめのことを発表するようにしているとのこと。 「何かにつまずいてすごく恥ずかしかったんだよね、とか。そうすると子どもは『大人でも失敗したりするんだ』と思って、彼女も小さいことも話してくれるので、その会話の中で様子を把握するようにしています」(鈴木さん) ■学校で扱われないから悩む 第二部では、“人間と性”教育研究協議会(性教協)代表幹事の水野哲夫さんが登壇。水野さんは私立大東学園高校に国語科教員として就職し、総合科目である「性と生」も担当。定年退職後は、非常勤講師として一橋大学など、多くの学校でセクソロジー関連科目を担当している。 ここでは、2023年4月から2024年3月までにセイシルに集まった約3000件の10代の悩みが紹介された。男女ともに、マスターベーションに関する相談が圧倒的に多い。具体的には「1日にオナニーは何回していいの?」「オナニーで妊娠することはありますか?」「オナニーするのは恥ずかしいことですか?」など、さまざまなモヤモヤが寄せられている。 マスターベーションに関する相談が多い理由について、水野さんは「学校でほとんど扱われてないからです」と述べる。 「(性教育を)頑張って教えてくれている学校でも、『マスターベーションは有害ではない』というくらいの抑制的な扱いであって、ここで相談されているような内容には全く届いていない。だから子どもたちにとっては、誰にも教わったことがない内容です。 性教育を頑張ってやるようになったとしても、ここに届いているような内容に答えることを学校でやっていくのは、おそらくなかなか難しいだろうと思います」(水野さん) また、男子中高生に行き渡っている、「マスターベーションをしすぎると死ぬ」という「テクノブレイク」と呼ばれる都市伝説があるとのこと。水野さんが「嘘に決まっているだろう」と授業で話したところ、生徒が青い顔でスマホを持ってきて「先生、これがテクノブレイクで死んだ人間の画像です」と人形の写真を見せてきたという。水野さんが「全然違うから」と話すと、授業後のコメントには「安心した」とたくさん書かれていたそうだ。 セイシルには「手マンで妊娠しますか?」といった相談が届くこともあり、大人にとって簡単に否定できることでも、子どもは真剣に悩んでいることがあるとわかる。 ■大人の悩みのうち8割が子どもの悩みと同じ ただ、大人も子どもと同じように悩んでいることも見えてきた。「10代向けメディア」であることを謳っているセイシルに1年間に寄せられた相談のうち、20歳以上から送られたものが全体の2割(約850件)を占めている。内容を分析したところ、「オナ禁のメリット」「我慢汁で妊娠するのか」「セックスが怖い、痛い」など、8割が子どもの悩みと重なっているとのこと。 このデータについて水野さんは「必然だと思います。でも(悩みが)具体的になるんですよ。他人事じゃなくて自分事になっているので。切実さは大人の方が多いのかなと思います」とコメント。 進行を務めていたセイシル運営の福田眞央さんも、最近、性教育を推進している小学校で話を伺った際に、「子どもたちにプライベートゾーンの話をしたら、『お母さんやお父さんがわかってくれない』『先生が間違ったことをしてた』と子どもたちから聞くことがある」という話を(学校の方から)聞き、「大人にとっても学びの機会がすごく大切だと感じた」と話す。 子どものときに性教育を受けてこなかった・大人になっても正しい知識を得られなかった……そんな状況をふまえて、新サイト「おとなセイシル」の立ち上げが発表された。 同サイトは、単なる興味から悩みの解決まで、幅広い性のはなしを知ることができるメディア。メインターゲットは20代から30代。愉快なキャラクターと一緒に、悩みに向き合っていく内容となっている。「セックス」「マスターベーション」「妊活」「早漏・遅漏・ED」など12のカテゴリごとに、日常生活で感じる性の疑問や悩みを取り扱う。 取材・文/雪代すみれ
雪代すみれ