アラン・ドロン、ドナルド・サザーランドら、2024年に逝ける映画人たちを偲んで
ノーマン・ジュイソン
1月20日、97歳没。『夜の大捜査線』(1967年)、『ローラーボール』(1975年)、『月の輝く夜に』(1987年)、『ザ・ハリケーン』(1998年)と、気骨ある社会派作家として多彩なジャンルに挑み、時代ごとにさまざまな「衝突」を描いてきた名匠である。奇しくも『夜の大捜査線』のサウンドトラックを手がけた米音楽界の巨人、クインシー・ジョーンズも今年11月に世を去った。 ジュイソン(Jewison)という名前だが、実際はイギリス系白人の息子で、ユダヤ人(Jew)ではない。だが、生まれ育ったカナダ・トロントで多くのユダヤ人差別を目の当たりにし、人種差別への徹底的な反発心が育まれた。その経験が後年の作風を決定づけたという。 最後の長編『The Statement(原題)』(2003年・未)は、今年俳優引退を発表したマイケル・ケインが年老いた戦犯を演じた社会派スリラー。かつて親ナチス政権のフランスでユダヤ人処刑に加担した主人公が、教会の長年の庇護を失い、孤独に逃走する姿を描く。少年時代から変わらない監督の問題意識を示した佳作だが、これを遺作とするには早すぎた気がしてならない。
イ・ドゥヨン
1月19日、81歳没。約60本の監督作を残した韓国映画界の巨匠。日本での知名度はあまり高くないが、レンタルビデオ全盛期に「コリアン・エロス」ブームを巻き起こした『桑の葉』(1985年)の監督といえばピンと来る人もいるのではないか。 70~80年代には、香港クンフー映画に代わる格闘アクション路線=テコンドーアクションを開発したヒットメイカーとして名を馳せ、記念すべき第1弾『龍虎対錬』(1974年・未)を皮切りに、ダイナミックかつ切れ味鋭い演出で韓国アクション映画シーンを牽引した。さらに、朝鮮戦争を背景にした大河ミステリー『最後の証人』(1980年・未)は、パク・チャヌク監督も「不朽の名作」と評する渾身の力作。同年に手がけた『避幕』(1980年・未)は、巫堂(ムーダン)を主人公にした横溝正史調のフォークロア・ミステリー。つまり近年のヒット作『哭声/コクソン』(2016年)や『破墓/パミョ』(2024年)の原点といえる。 多彩なジャンルを横断する職人監督として一時代を築いたが、2003年の『アリラン』(未)が最後の長編となった。現在、韓国では彼の作品が続々リマスターされており、日本でも再評価もとい初評価されるべき監督である。 このほかにも、多くの訃報に世界中の映画ファンが驚き、言葉を失い、悲しみに暮れた。日本国内にも目を向ければ、さらに衝撃的なニュースがいくつも思い返されるだろう。 しかし、それも人生。誰にでも最後のときは訪れる。いまは彼らの生きた証である作品を振り返り、改めてその功績を心に刻むことが、私たちにできる追悼の祈りだ。
岡本敦史