「かけ子の減少でより凶悪に」…相次ぐ『闇バイト強盗事件』増加の理由と導入される最新捜査手法
〈‘24年は「闇バイト」による強盗事件が頻発した一年だった。被害者を殺害するなど凶悪化の一途を辿る一連の犯罪。ノンフィクション作家・尾島正洋氏が、その深層と捜査の最新事情に切り込む〉 「し、して」…「かわいい!」と評判の26歳女性かけ子「共犯者と関係し妊娠」妖艶な素顔写真 あり得ない高額な報酬を提示する「闇バイト」に応募した若者たちによるとみられる強盗事件が、年末になっても相次いでいる。千葉県内では12月22日、2件の強盗事件があり警察は逃走している犯行人の行方を追っている。今秋以降、首都圏を中心に連続発生した「匿名・流動型犯罪グループ(通称・トクリュウ)」による強盗事件との関連については捜査中だが、住宅に押し入り暴行を加える手口は共通している。警察当局は来年から新捜査手法を導入するとしているが、闇バイト根絶となるかは未知数なのが実態だ。 首都圏で連続発生している闇バイトによる強盗事件は8月以降だけで20件以上となり、これまで50人以上が逮捕されている。10月には横浜市青葉区の住宅で無職の男性(75)が殺害され現金およそ20万円が奪われるという痛ましい事件も発生した。警察当局の捜査幹部は、「実行役の多くは、このような凶悪事件を引き起こすとは思えないような普通の若者たち。住人から抵抗されるのが怖いから、必要以上に暴力を振るってしまう。暴力の加減を知らないから重大な被害に結びつく」と推測する。 普通の若者たちだからこそゆえか、「逮捕された後の取り調べでは、しでかしたことの大きさに驚き、謝罪と後悔から泣きじゃくる者もいる」と前出の警察当局の捜査幹部は続ける。首都圏の一連の事件での逮捕者はいずれもSNSで闇バイトに応募していた。実行役は報酬を得られないばかりか、使い捨てられるのも共通している。 ◆石破首相が異例の表明 首都圏のほかでも、北海道斜里町でサケを密漁していたとして、無職の男ら5人が逮捕された事件もあった。男らも同様にSNSで闇バイトに応募し千葉県、神奈川県から集まっていた。このように関連が疑われる事件はほかにもあり、別グループのトクリュウによる可能性も否定できない。暴力団道仁会系組幹部の男がSNSで闇バイトを募ったとして、熊本県警は11月に職業安定法違反容疑で、福岡県久留米市の道仁会の本部を家宅捜索しており、同様の関連事件は合計するとさらに増加するとみられる。 事件の増加と凶悪化は政府も動かした。 「最近、いわゆる闇バイトによる強盗、詐欺の報道を見ない日はありません。(中略)こうした犯罪を断じて許してはなりません。悪質な事件の主体となっている、いわゆる匿名・流動型犯罪グループの検挙を徹底するための取り組みを一層推進してまいります」 国民の体感治安が極度に悪化していることに危機感を持った石破茂首相(67)は、11月末の臨時国会の所信表明演説でこのように決意を強調した。国会の演説で事件についての言及は異例のことだった。 ◆かけ子の不足から強盗に鞍替えか 続発する強盗事件の背景には何があるのか。警察当局の別の捜査幹部は、「オレオレ詐欺など特殊詐欺の際に電話をかける『かけ子』の人材不足があるのではないか」と分析している。 「シナリオを書く人物は別にいるとしても、詐欺の電話をするにあたり、『警察の者だが、あなたの銀行口座が悪用されている』『国税庁の調査官です。脱税事件の調査で……』などと言葉巧みに話せるようでなければだませない。しかし、詐欺トークが巧みなかけ子が不足しているため、かつて特殊詐欺を行っていたトクリュウが、より手っ取り早くカネを取れるタタキ(強盗)に手口を変えたのではないか」 反社会的勢力である暴力団幹部は、若者の性格の変化も闇バイトを増加させる一因となっていると見ている。 「かつて不良はヤクザに憧れて入門してきた。しかし、ヤクザになると最初は『部屋住み』といって親分の自宅兼事務所に住み込みで掃除や洗濯、食事作りなどを行う見習い修業のようなことが待っている。さらに、特有のしきたりや厳しい上下関係があるから最近は敬遠されている。それよりも気の合う仲間といたほうが楽しいに決まっている。それで半グレのようになり闇バイトを募集して楽にカネを得ようとしているのだろう」 止まらぬ凶悪事件への対策として、政府は12月17日、犯罪対策閣僚会議を開催し、SNS事業者に対して、「ホワイト案件」「即日即金」などの問題のある募集投稿の削除を要請。犯罪の未然防止を図るほか、警察には「仮装身分捜査」といった新たな捜査手法での対応を求めることにした。 仮装身分捜査とは、トクリュウがSNSで闇バイトを募集した際に、捜査員が免許証などを偽造して身分を偽ってバイトに応募して犯行グループに接触する捜査手法。強盗事件の実行の際に、トクリュウの指示に従い実行役が現場に集まった際に、先回りして張り込んでいた捜査員らが取り押さえ、強盗予備容疑などで逮捕することで未然に防止するとしている。免許証などの偽造は公文書偽造罪に抵触するとの指摘もあるが、刑法の「正当な業務による行為は罰しない」との規定があるため、違法性は回避できるという。 犯罪対策閣僚会議に先立って、警察庁の露木康浩長官は12月12日の会見で、仮装身分捜査について「雇われたふり作戦」と命名。「捜査員が身分を秘して募集に応じ、検挙につなげるのに効果的だ」と強調した。 ただ、仮装身分捜査だと実行役の身柄を未遂段階で押さえることはできても、指示役の存在を確認できるかどうかは不明だ。実行役から押収したスマホのデータを復元する『デジタルフォレンジック捜査』を進めているが、指示役へつながる突き上げ捜査は難航している。ただ、SNS上の安全地帯にいるトクリュウの指示役が、現実世界に姿を現すようなミスを犯せば、捜査の突破口になる可能性もある。 前出の警察当局の捜査幹部は、「リクルーター役や強盗で奪ったカネの運び役など、実行役とは別の役回りが徐々に逮捕されている。デジタル捜査とともに、こうした役割の人物から指示役へとたどり着く捜査の両面で進めていくことで活路を見出せれば」と今後の見通しを語っている。トクリュウ犯罪撲滅へ、懸命の捜査が続く。 取材・文:尾島正洋
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