世陸で見えた勢力地図。東京五輪に見えてきた日本リレーの金メダル
日本陸連短距離担当の苅部俊二・五輪強化コーチも、「私たちが目指していた決勝の常連にはなれたと思うんですけど、今度はメダルの常連になりたい。リオでとって、ロンドンでもとれたことで、理想になりつつあります。かつては固定化されたメンバーで戦ってきましたが、いまは本当に楽しみな選手が多い。東京五輪に向けて、メダリストとしてのプライドを持って戦っていきたいです」と厚くなった選手層に自信を深めている。 そして、日本のレベルが上がる一方で、男子スプリント界の“二大勢力”はかつての勢いがなくなりつつあるのだ。ジャマイカは2009年のベルリン世界選手権からこの種目で勝ち続けてきたが、今回はラストランを表明していたウサイン・ボルトの途中棄権で、世界大会の連覇が「6」でストップした。今回のリレーメンバーは、1走・マクレオド(23歳/9秒99)、2走・フォート(24歳/9秒99)、3走・ブレイク(27歳/9秒69)、4走・ボルト(30歳/9秒58)。ボルトというスーパーエースが抜けるのは大きな戦力ダウンで、今大会100m4位のブレイクもテグ世界選手権(2011年)の100mで金メダルを獲得したときほどのスピードはない。3年後の戦力はちょっと未知数だ。 では、ジャマイカのライバル・アメリカはどうか。 2位に入った決勝のオーダーは、1走・ロジャース(32歳/9秒85)、2走・ガトリン(35歳/9秒74)、3走・ベーコン(21歳/10秒00)4走・コールマン(21歳/9秒82)だった。予選では3走にリー(24歳/9秒99)が入り、200mではアミール・ウェブ(26歳/9秒94)が5位、アイザイア・ヤング(27歳/9秒97)が8位に入るなど選手層は厚い。しかし、3年後を考えるとロジャースとガトリンが今のパフォーマンスを維持できるとは思えない。加えて昔からバトンパスに安定感がなく、北京世界選手権とリオ五輪では決勝で失格になっている。 未来のことを予想するのは難しいが、2020年、日本勢はメンバー4人の100m合計タイムは、ジャマイカとアメリカの水準に近くなるはず。そして、日本の“お家芸”である緻密なバトンワークがさらに洗練されてくれば、東京五輪では、堂々と「金メダルが目標です」と言い切れる状況になっていることだろう。 地元Vを飾るために、お手本にすべきはイギリスだ。今大会は地元の大声援を追い風に、37秒47の今季世界最高タイムで優勝をさらっている。決勝のメンバーは、1走・ウジャ(23歳/9秒96)、2走・ジェミリ(23歳/9秒97)、3走・タルボット(26歳/10秒14)、4走・ミッチェル ブレーク(23歳/9秒99)。他に100mで7位に入ったリース・プレスコッド(21歳/10秒03)もいる。スーパーエースは不在だが、4人の走力が高く、しかも20代前半が主力。3年後、日本にとって最大のライバルとなりそうだ。 日本選手権のとき、北京五輪・男子4×100mリレーの銅メダリストである高平慎士(富士通)は、「リレーは出ればメダルという時代がもう来ていると思います。でも、ボルトのように『100mと200mを走った後に皆でリレーをやるから価値がある』と言える選手が出てこないといけない」と話していた。 ロンドン世界選手権では個人種目に出場した4人全員が準決勝まで進出したが、東京五輪の男子4×100mリレーで金メダルを目指すには、個人種目でも複数人がファイナルに進出できるような力をつけることが大切になるだろう。サニブラウンに続くファイナリストが何人出てくるのか。リレーでつけた自信を個人種目につなげていき、2020年の東京五輪では「ニッポン」の大歓声を期待したい。 (文責・酒井政人/スポーツライター)