候補者の取材拒否、識者は警鐘「民主主義が崩壊する」 旧統一教会問題で異例の選挙戦を振り返る
今回の衆院選では、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係を巡って経済再生担当相を辞任した自民党の山際大志郎氏(56)が神奈川18区から出馬し、比例復活で7回目の当選を果たした。街頭演説で問題について自らの言葉で説明することはせず、メディアの取材からも逃げ回り、党県連幹部も苦言を呈するほど。専門家は「こうした行動が当たり前になれば民主主義自体が崩壊する」と警鐘を鳴らす。 【写真で見る】山際氏の事務所が入るビルの入り口に掲げられた「立ち入り禁止」の張り紙 ■関係者以外、立ち入り禁止 公示日の10月15日、各候補は支持者や報道陣を前に第一声を上げた。山際氏陣営はホテルで出陣式を行い、当初、報道陣を一切入れない方針を通告。報道各社と折衝の末、代表取材という異例の事態となった。 投開票の同27日。当落にさまざまな表情を見せる注目候補の様子がテレビなどで流されるのが定番だが、山際氏の事務所が入るビルの入り口には関係者以外の立ち入りを禁じる張り紙が掲げられ、報道陣は一歩も入ることができなかった。 ■有権者「逃げずに答えて」 「旧統一教会とは断絶」─。山際氏は自身のX(旧ツイッター)で選挙期間中、何度もこの文言を投稿した。しかし街頭演説ではこれまでの経済政策の実績などをアピールするだけで、問題には触れなかった。陣営関係者は「最初にしっかり話していれば、これほど大きな問題にならなかったのでは」と首をかしげる。 立憲民主党の野田佳彦代表は立民候補の応援演説に訪れた際、「有権者の前に出てこないとか、メディアの質問に答えないのは民主主義に反する。有権者をばかにしている」と断じた。 山際氏の選挙結果は前回選から約6万8千票を減らし3位に沈んだものの、比例南関東ブロックで自民最後の議席に滑り込んだ。 選挙区の有権者は山際氏にどんな思いを抱いたのか。選挙後、JR武蔵溝ノ口駅周辺で聞いた。自民支持者という無職男性(83)は「この国を任せられるのは、自公の連立しかない。旧統一教会の問題に対し自分の思いをさらけ出し、信念を伝えた方が良かった。山際さんというより自民党に入れた」と語った。主婦(70)は「山際さんには逃げずにちゃんと答えてほしかった。裏切られた思い」と姿勢に疑問を抱いていた。 ■山際氏側の説明は 今回の選挙でメディアから逃げていたのは山際氏だけではない。旧統一教会トップを「マザームーン」と呼ぶ様子が話題となった自民の山本朋広氏(神奈川4区から出馬し落選)も「カルトはノー」などと主張しながら取材は拒否し続けた。 自民党県連の小泉進次郎会長は今月6日、記者団から山際氏らの行動について問われ、「メディアの向こう側に国民がいる。そこに対して真摯(しんし)に向き合う姿勢を持つ。これは選挙戦に限らず持たなければならない。個人の基本的な政治姿勢の問題だ」と述べた。 山際氏事務所に今回の選挙戦でメディア対応を避けたことなどについて本紙が質問状を送ったところ、「私自身の政策や政治姿勢などについては、これからもさまざまな機会を通じて説明してまいります。取材対応については多くの社から取材依頼が殺到し混乱をきたすことが予想されたのでこのような対応にいたしました」との回答があった。 一方で、専修大の山田健太教授(言論法)は「選挙期間中の情報は有権者が最善の選択をするために最低限必要なもの。情報が流通しないことは有権者にとって大きなマイナスであり、民主主義社会の大きなデメリットになる」と指摘。自らのSNS(交流サイト)で発信すればよいとの風潮には「メディアの前で語ることによって議論が生まれるし、情報が強化される。そこに気付かないと民主主義が壊れてしまう」と訴える。
神奈川新聞社