「女性は甘いものが好き」「仕事後のビールはよりおいしい」は本当か…味覚が人によって違いすぎる、納得の理由
若者の味覚が鈍くなっている?
味覚の違いが、性ホルモンや遺伝子などから来るらしいことはわかったが、環境要因も影響しているのではないか。この4半世紀、亜鉛が欠乏する乱れた食生活の結果で、若者の味覚感受性が低下している、という報道がくり返されている。 若者の味覚についての調査研究はいろいろあるが、そのうちの1つに仙台白百合女子大学健康栄養学科の共同論文「食生活状況と味覚感度に関する研究」(矢島由佳・髙澤まき子)がある。2014年10~12月、同大学の19~21歳の女子学生107人を対象に、味覚調査を行っていた。自宅通学生が53パーセント、自宅外通学生が47パーセントである。 研究では、学生たちに甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、無味の蒸留水2種類の7つの試料液を飲ませて検査用紙に感じた味を書かせた。正答率は48・6パーセントしかなく、正答率が高かったのは甘味、酸味でどちらも95・3パーセント、苦味が91・6パーセントだった。誤答率が高かったのはうま味と塩味で、それぞれ57・0パーセント、74・8パーセントの正答率しかない。うま味と塩味を取り違える人や、無味の水をうま味や苦味、甘味などと回答している人が多かった。こうした結果から、やはり若者は、うま味を感じ取る能力が低下している、と言えるのだろうか。 同調査では、食生活に関するアンケートも行っている。ふだんから家で調理し食べている学生が45・8パーセント、家で調理しているが、たまに市販品を利用している人が40・2パーセントいた。食事は毎日3食摂っていると答えた人が83パーセント。若者の食の乱れが味覚を低下させるという主張がなされる一方で、この結果は特別食が乱れているわけではないのに、うま味を識別できる人が少なかったと言える。不規則で不摂生な食生活が、味覚に影響したとは言えないのだ。それとも、濃厚味が広まった結果、手作りの料理を食べている人でも、味覚の繊細さが失われつつある、と言えるのだろうか。 この調査は、味の濃淡やうま味の感度についての、一つの結果に過ぎない。他の条件で他の人たちを対象に調査すれば、別の結果が出るかもしれない。10年後の現在の20歳はまた違うかもしれない。同調査は他の年代の人たちと比べていないので、若者の味覚が鈍くなったのか、大人も同じなのかわからない。もっと視野を広げれば、昭和時代では違う結果が出たはずだったのかは不明である。科学調査の結果は常に、「可能性」であって絶対ではない。 この4四半世紀にくり返された、若者の味覚に関する記事を拾ってみると、「若者の食の乱れ」という結論ありきの記事も散見される。濃厚味の食べ物を常食することによって、味覚が鈍くなる人はいると思われるが、断定はできない。味覚の違いは遺伝子や性別、ストレスなどから生まれる場合もあるが、食習慣は地域性や家庭環境なども影響する。いつかは科学で、甲乙がつけられるのだろうか。
阿古 真理(くらし文化研究所主宰・作家・生活史研究家)