EV化を進める=カーボンニュートラルじゃない! 日産が打ち出した「NGP2030」の壮大な中身とは
日産が新たな取り組みへ向けて動き出した
一部の自動車ファンにおいては、未来永劫にわたり化石燃料を消費することを是とするような発言もみられるが、自動車メーカーにおいては、環境問題を無視した姿勢は許されないというのが現代の趨勢といえる。サステナビリティ(持続可能)なビジネスモデルであることが求められているのだ。 【画像】日産のカーボンニュートラル実現に向けた活動 たとえば日本政府は、2050年カーボンニュートラル(実質的なCO2排出ゼロ)を国際公約として掲げている。目標レベルやスケジュール感に多少の違いはあれど、地球温暖化・気候変動対策として、CO2排出量減が必要というのは世界的なコンセンサスだろう。当然、自動車メーカーもゼロエミッション車の普及に向けたロードマップを描くことが、サステナビリティにおいて求められている。 日産自動車(以下、日産)が初めて発行した「統合報告書」は、まさにサステナビリティを中核に据えた日産のビジネスとその進捗を紹介するものとして注目だ。視点を変えれば、この統合報告書は日産がこれから生み出す価値がどんなものになるのかを示しているともいえる。 はたして、日産の描くサステナブルな未来の日産車とはどんな姿をしているのだろうか。 そのあたりを考察するには、同じタイミングで策定されたふたつのプログラム(行動計画)のうち、環境対応を示す「ニッサン・グリーンプログラム 2030(NGP2030)」に注目したい。 第5世代となるNGP2030の主なテーマは、「気候変動」「資源依存」「大気品質と水」の3つとなっている。気候変動対応について日産は、EV(電気自動車)を軸としたゼロエミッション車で対応するというアプローチをとっていることはご存じのとおり。
いままでの常識が変わるかもしれない
とはいえ、EVに対しては「製造時のCO2排出量がエンジン車より多い」という批判はつきものとなっている。いわゆるライフサイクルアセスメント(LCA)視点でのEVにおける課題だ。2050年にLCA全体でのカーボンニュートラル実現を目指す日産は、NGP2030において2030年までの目標を以下のように掲げている。 ■車両1台当たりのライフサイクルCO2排出量を30%削減 ■車両1台当たりの製造時のCO2排出量を52%削減 ■新車走行時のCO2排出量を、日本・米国・欧州・中国の4つの主要市場において、50%削減。グローバルで同CO2排出量を32.5%削減 ※いずれも2018年比 簡単かつ乱暴にまとめれば、再生可能エネルギーや原発などの非化石電源をメインのエネルギー源として、走行時にCO2を排出しないEVを量産するということになるだろう。 これについては自動車ビジネスの未来像として想像しているユーザーも少なくないだろうが、日産の高い目標はこれだけでは終わらない。資源依存について以下のような高い目標を掲げている。 ■2030年までに主要市場におけるサステナブルマテリアル比率40% ■2050年までに新規採掘資源依存ゼロ サステナブルマテリアル比率を高めるための手法としては、リビルトやリサイクルの活用を増やすことをイメージするだろうが、それだけではない。バイオ由来の素材も含まれる。 2050年に新規採掘資源依存をゼロにするという目標から、「クルマを作るための素材すべてを再利用品にするということは、これまでより生産台数は減ってしまうのでは?」と思うかもしれないが、バイオ系マテリアルの活用次第では、規模的な成長と環境対応は両立できるというのが日産の主張だ。 また、バッテリーリサイクルを進めていくうえで、1台あたりの航続距離を伸ばすような商品性アップも目指しているという。ユーザー的には我慢することなくゼロエミッション車を利用できる明るい未来が待っているというわけだ。 とはいえ、こうした目標は企業にとってはより厳しく大変な時代になることを想像させる。素材によっては市場から部品を回収してリサイクルすることが求められることもあるだろう。自動車に限らず、リサイクルのために古い製品が求められるようになり、企業間で奪い合いになるという未来もあり得そうだ。 未来の自動車社会といえば、自動運転テクノロジーの進化も予想されている。究極的に自動運転が進んだ社会においては交通事故を考慮しなくなるという予想もある。 そうなると、衝突安全性は現在のようなレベルである必要はなくなる。軽量なバイオ樹脂で作られたボディのEVが街を走るということになるかもしれない。日産の発表したNGP2030からは、そうしたモビリティの変化が読み取れるといえそうだ。
山本晋也