統合失調症を否定して姉を家に閉じ込めた両親、家族はなぜ25年もすれ違い続けたのか?
「どうすればいいのか」。その逡巡を積み重ねた末、取り返しがつかなくなった後に改めて、自身に問い続ける、「どうすればよかったか?」――。医学生の時に統合失調症を発症した8歳年上の姉と、病気と認めず南京錠をかけて外の世界から遮断することを選んだ医師で研究者の父と母の姿を、20年以上にわたり記録したドキュメンタリー映画が12月7日に公開後、連日満席が続き話題になっている。藤野知明監督は、「統合失調症について知ってほしい思いで映画を作った」と話す。(取材・文/編集者・ライター 西野谷咲歩) 【この記事の画像を見る】 ● 女性の絶叫が響くスクリーン 姉の異変を直視した監督の覚悟 「私は色々努力したけれど、結果として、両親を説得して姉を受診させるまでに25年かかってしまった。姉に対しては本当に申し訳ない。これは私の家族の失敗例です」 そう吐露する藤野監督の映画『どうすればよかったか?』は下記のシーンで始まる。 「どうして家から分裂病が出なきゃなんないの?」 「あんた本当にひどい人だね!」 「なんでそんなひどいことするの!」 「やだこんな人!」 「なんで私にばかり恥をかかすの!」 黒のスクリーンに約1分間にわたる女性の絶叫が響き渡る。これは1992年、藤野監督が北大農学部の学生だったころ、家の様子を記録に残すために録音した姉の声だ。 初めて姉に不審な症状が出たのは1983年の春、この録音の約9年前だという。当時、姉は24歳の医大生だった。17歳だった藤野監督は「神経質だったり怒りっぽかったりはしましたが、このときは状況が違う。隣の部屋にいた姉が突然怒鳴るように、支離滅裂でうなされているような言葉を30分以上しゃべり続けました」と語る。
父は単身赴任中だった。そこで母と話し合って救急車を呼び、父の知り合いがいる病院につれて行ってもらった。そのとき、「医学的な助けがいるだろう」と直感的に思ったという。 翌日、姉は退院し、家に戻った父は「医師から全く問題ない。精神科病院に入れると心の傷になるから早く連れて帰った方がいいと言われた」と話した。その後、「姉は、勉強ばかりさせた両親に復讐するため、あのように振る舞っている」と父と母は説明するようになる。「当然、私と同じような認識を持つと思っていたので、最初は何が起きているか分かりませんでした」 姉は常に症状が出るわけではなかったが、急に食卓の上に飛び乗るなどの行動が頻発した。「泣きながら夜、私の部屋に飛び込んできたこともあって、怖くて姉が寝るまで眠れず、睡眠時間1、2時間で高校に通うこともありました」 ● 「姉さんが精神障害ならお前もか?」 面と向かって言われるとショックだった 月日は流れ、大学生になった藤野監督が語学の単位を落とした際、教員が心配してくれた。家の事情を相談すると、「姉さんが精神障害ならお前もか?」と返された。「自分自身にも不安がありました。いつかそうなるかもしれないと。ただ、人に言われるとショックでしたね」 相談しても、周りは受け止められない。話している言葉を遮り「そんなこと、気にするなよ」と早急に答えを出す人もいた。そんな中、大学の近くにあった居酒屋の「おじさん、おばさん」は違った。「ひたすら話を聞いてくれるんですね。それで楽になることを知りました。このことは今のドキュメンタリーの仕事にも役に立っています」 姉の症状は悪化していく。受験できるような状態ではないにもかかわらず、父は国家試験の参考書を毎年買ってくる。姉は110番通報し、「変な女の人がいるから逮捕してくれ」と叫び続ける――。 一般の人にとって、明らかに「普通ではない」情景がスクリーンに広がるが、それが「当たり前の風景」として家庭になじんでいる。「最初はビックリしていたと思いますが、確かに、だんだんと慣れてきてしまったのかもしれませんね」