【市川染五郎さんインタビュー】新春浅草歌舞伎デビュー!客席にジワを起こしたい
キラッキラなのにどこか愁いを帯びていた美少年が、いつのまにかこんなにも大人っぽい青年に。 【写真】大人の心に響く「ぐっとくる言葉」
「今年1年、本当に幅広くいろいろな役をつとめさせていただきました。阿呆な男の役、人間と豹のハーフ、父の役よりはるかに年配の役、そして光源氏。自分とはかけ離れた役が多くて、“この人はなぜこういう行動をするのだろう”と常に考えていた1年でしたから、僕自身もなにかしら影響を受けているのかもしれません」 若手俳優が古典歌舞伎の大役に挑戦できる貴重な機会。それが新春浅草歌舞伎だ。今回から顔ぶれも一新、染五郎さんも選ばれた。 「驚きました。正直今回はまだ入れないだろうなと思っていたので。18歳の(尾上)左近君の次に年少なんです。数少ない同世代の彼と一緒に入れたのもうれしいです」 義太夫狂言の名作『絵本太功記』の主役、武智光秀(明智光秀がモデル)をつとめる。数ある役の中でもトップレベルに骨太な役だ。 「笠で顔を隠したまま竹藪からヌッと登場しますが、その笠をおもむろに下げて見得するだけでジワがくる、客席がざわめく、それが理想だと播磨屋の大叔父(二代目中村吉右衛門)がいっていました。そんなすごみが出せたらと思います」 白塗りではなく薄い茶の顔色に藍と墨で隈をとり、額には小田春長(織田信長)につけられた傷あと。見るからに修羅そのもの、負のオーラがすごい。 「でも悪い人かといわれるとそうではない。悪人に見えないように気をつけないと」とギュッと口もとを引き締める。 四六時中舞台のことを考えているようだ。YouTubeで見るのももっぱら舞台の映像。だがロバート秋山の『クリエイターズ・ファイル』も大好物だという。 「もう毎日見てます(笑)。そんなところに目をつけるのか!と。僕もいつかは歌舞伎はもちろん、舞台をつくってみたいと思っているのでとても刺激を受けています」 幼いころから芝居の台本を書いたり、舞台セットの模型を自分でこしらえたりしてきた。 「6月に(中村)勘九郎のお兄さんが出演された新宿梁山泊の公演(紫テント)を見ました。江戸時代の芝居小屋もこんな空気感だったのかなとワクワクしました」 十八代目中村勘三郎さんも、若いころにテント芝居に刺激され、のちに平成中村座を興したというエピソードを思い出す。 「勘三郎のおじさまも19歳のころの夢をかたちにされたわけで本当にすごいなと。僕も今19歳。思いがけないところで大先輩とリンクできたのがうれしかったです」 染五郎さんプロデュースの芝居小屋が満員札止め……。その夢、ぜひともかなえてほしい。 ジャケット¥93,500・シャツ¥49,500/エム(ウジョー) ネックレス¥616,000/メシカ ジャパン(メシカ) 【市川染五郎】 いちかわ そめごろう●’05年、東京生まれ。十代目松本幸四郎の長男。’07年6月、歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見得。’09年6月、歌舞伎座『門出祝寿連獅子』で初舞台。’18年1月・2月、歌舞伎座『勧進帳』源義経ほかで八代目市川染五郎を襲名。映画『鬼平犯科帳血闘』で若いころの鬼平・長谷川銕三郎役、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に木曽義高役で出演。
『新春浅草歌舞伎』
若手歌舞伎俳優が古典の大役に挑む。出演は中村橋之助、中村鷹之資、中村莟玉、中村玉太郎、市川染五郎、尾上左近、中村鶴松。回替わりで出演俳優による「お年玉〈年始ご挨拶〉」も。’25年1/2~26、浅草公会堂 問☎0570・000・489(チケットホン松竹) 撮影/柿沼隆介 ヘア&メイク/林 摩規子 スタイリスト/中西ナオ 取材・原文/五十川晶子 ※エクラ2025年1月号掲載