「日本海の孤島・渡島大島」の噴火…「降灰まみれの悲劇」に見舞われた松前を、さらに襲った10m超の「大津波」の正体
シミュレーションでわかった、大津波とその正体
1741年8月29日に甚大な災害を発生させた津波の原因については、山体崩壊が有力視されていたものの、地震の可能性なども否定できないため長く論争があった。しかし海底地形調査や数値シミュレーションなどの結果をもとに、現在では山体崩壊が最も有力な説となっている。 噴火を起こしていた渡島大島の西側を構成する山体が大崩壊を起こし海に流入し、大量の砕屑物が海面を押し上げ大津波が発生したというシナリオである(図「渡島大島の現在の地形と18世紀噴火による地形変化」)。 山体崩壊の崩壊量は2km³を超えると推定されているが、陸上部分の崩壊量は0.5km³にも満たない程度で、残りは海底山体に由来する。つまり島の一部が崩れ落ちただけでなく、海底部分も含めた大規模な地形変化が起きていたのだ。しかし崩壊による土砂の移動過程や津波の発生過程、噴火のどのタイミングで崩壊が発生したかなど、十分に明らかにされていないことがまだ多く残されている。 このように、渡島大島の事例は、火山噴火と山体崩壊、そして山体崩壊と津波の関係について理解を進めるための貴重な機会を提供し、陸海にわたる統合的な調査研究が必要とされてきた。 * * * 著者は、山体崩壊と津波の関係を追求するため、住む人のない絶海の孤島・渡島大島を訪れ、現地調査を行いました。続いては、島に残された痕跡から山体崩壊と津波発生のメカニズムについての解説をお届けします。 島はどうしてできるのか 火山噴火と、島の誕生から消滅まで 島……その創造と破壊から、地球の姿が見えてくる
前野 深(東京大学地震研究所准教授)
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