【貴志祐介×角川歴彦 集中連載】冤罪とは何か?人質司法、人民裁判…まずは小説と映画の話をしよう
告発小説とサイコホラー小説を書き分ける技術
貴志「小説 野性時代」に連載していた『さかさ星』というオカルト・ホラー小説を、今ちょうど改稿している最中なんです。順調に行くと2024年9月に出版予定です。 角川それは楽しみですね。 貴志ぜひご覧になっていただけるとうれしいです。『黒い家』はどちらかというとサイコホラー小説でした。ある程度歳を重ねるうちに、幽霊屋敷的な日本古来のオカルトものに興味が向いてきたのです。そこで呪術によって呪いがこもった物品が山のように出てくる話を『さかさ星』で書きました。 角川その新境地には要注目ですね。この対談で追って申し上げますけど、冤罪(えんざい)事件を描く貴志さんの最新刊『兎は薄氷に駆ける』は、現実と深くリンクした、国家権力に対する「告発小説」だと僕は見ています。「告発小説」とサイコホラーを同時に書き進めるとき、作家として頭の中でどういうふうに分離しているんですか。 貴志振り子のようなものかもしれません。「リアルなほうへ行こう、行こう」としても、それ以上行けなくなってしまうことがあります。そういうときは、一回アンリアルなほうに振れると勢いがつくものです。逆もまた真なりでして。 リアルな作品を思いきり書いたあと、SFであれオカルトであれ、アンリアルな世界で思いきり想像力を羽ばたかせられる。リアルとアンリアルを振り子のように行ったり来たりしながら、僕は作品を書いています。 角川言語化が難しいお話を、巧みに言語化していただきました。容易にはうかがい知れない作家の創作の秘密です。 貴志作家としてデビューさせていただいて今日があるのは、角川書店のおかげです。ひょっとすると、角川さんとは前世で縁があるのかもしれません。昔はそんなことは一切考えなかったのですが、歳を取るにつれて「前世からの縁」という目に見えない世界にも思考が向かうようになりました。 (2024年4月16日、都内ホテルで収録/第2回「袴田事件の話をしよう」へ続く) 角川歴彦著『人間の証明 勾留226日と私の生存権について』(リトルモア、税込1,320円) 貴志祐介著『兎は薄氷に駆ける』(毎日新聞出版、税込2,420円)
貴志 祐介、角川 歴彦