【貴志祐介×角川歴彦 集中連載】冤罪とは何か?人質司法、人民裁判…まずは小説と映画の話をしよう
遠藤周作が放った一喝
角川『ISOLA』から始まって、貴志さんは何年書かれていることになりますか。 貴志『ISOLA』が日本ホラー小説大賞の佳作に選ばれたのが96年ですから、28年ですね。 角川すると再来年は作家生活30周年ですね。 貴志お恥ずかしいことに、作家としては質量ともにまだまだです。後輩の作家のほうがはるかにたくさん書いているものですから、いささか危機感を覚えています。いつまでも書けるものではありません。「今書かなければ」と気を引き締めて、がんばって小説を書いています。 角川「日本人にホラー小説は難しい」と思われていた時代で、日本ホラー小説大賞が創設され、この賞から貴志さんをはじめ多くの作家が生まれました。 貴志日本ホラー小説大賞が生まれたのは『リング』(鈴木光司著、91年刊行)の大ヒットがあった影響が大きいと思います。それからすぐに『パラサイト・イヴ』(瀬名秀明著、95年刊行)というベストセラーが生まれました(第2回日本ホラー小説大賞で大賞)。 角川日本ホラー小説大賞は、第1回に限り遠藤周作さんが選考委員を務めてくださいました。今にして思うと、よくあのとき遠藤さんが引き受けてくれたものだと思います。 貴志遠藤さんは「小説を舐(な)めるな! 以上!」と言って選考会を終えたとお聞きしました。 角川「必ずしも大賞を出さなくてもいい。そのかわり佳作はちゃんと出そう」というお考えを、敢えて厳しい表現でおっしゃったのだと思います。 貴志僕もこれまでいろいろ文学賞の選考委員を務めてきました。選考委員にとって当たり前の心情だと思いますけど、どの賞でも大賞を出したいものです。その誘惑を振り切って、日本ホラー小説大賞は2年に一回ペースでしか大賞を出していません。 角川おっしゃるとおりです。 貴志あれによって、「厳正な審査をしている」というイメージが定着し、賞にとって追い風になりました。 角川ええ、そのおかげで日本ホラー小説大賞がブランドになりました。