【貴志祐介×角川歴彦 集中連載】冤罪とは何か?人質司法、人民裁判…まずは小説と映画の話をしよう
角川歴彦が蜷川幸雄を口説いた殺し文句
角川僕は映画人として貴志さんの作品に注目し、小説を原作として映画化してきました(99年公開「黒い家」、2003年公開「青の炎」を製作総指揮)。「青の炎」は、舞台演出で高名だった蜷川幸雄(にながわ・ゆきお)さんに監督をお願いしました。角川映画の中でも出色の傑作だと思っています。 蜷川さんに監督のオファーを出したところ、「今日は断るために来たんだよ」と言って赤坂の中国料理屋に現れたんですよ。僕は「断られるために料理屋さんに呼んだ覚えはないんだけどな」と思いながら、こう言いました。 「蜷川さん、この作品は日本版の『太陽がいっぱい』(主演アラン・ドロン)なんですよ」 蜷川さんはこの一言に即座に反応しました。「わかった! やるよ!」 貴志それはすごいエピソードです。当意即妙のそのやり取りがなければ、あの映画は生まれなかったのですね。 角川お付きの人がさんざん車の中で「どうやって断ろうか」と相談していたのに、僕の一言でもって蜷川さんの気持ちがコロッと変わっちゃった。みんなで断りの口上をいくつも準備してきたのに、ご本人が「やるよ!」と言っちゃったものだから何も言えなくなった(笑)。僕はあの作品が好きでしてねえ。 貴志僕の心の中にもずっと残っています。 角川「青の炎」は、嵐の二宮和也君の映画主演デビュー作でした。 貴志映画の舞台は、原作で書いた湘南がそのまま生かされました。小説を書くとき、湘南まで取材に行ったんです。あのあたりを自転車で走ったことを思い出し、スクリーンを見ながら感慨深かったです。 角川今やジャパニーズ・ホラーとジャパニーズ・ミステリーは、ハリウッドに認められて世界進出する時代になりました。貴志さんに原作を提供していただいて映画を作れたことに、僕は深く感謝しているのです。 貴志ありがとうございます。量的にはまったく足りないですけど、これからさらに張り切って作品を書いていきます。