高校生が自主企画でインドの綿畑を訪問 「服が好きだから本当のことを知りたい」
WWD:渡航費などを集めるクラウドファンディングは計画が未達だったそう。どうやって資金を集めましたか?
福代:クラウドファンディングで資金は集まらなかったけど活動を知ってもらうきっかけとなり、少しずつ関心を持ってもらい、Tシャツの店頭販売による収益と、活動を通じて知り合った企業や個人からの支援で実現しました。渡航したのは高校生3人、大学生2人です。
WWD:実際にはどのようにして訪問が実現したのですか?
福代:テキスタイル エクスチェンジ(TEXTILE EXCHANGE)の稲垣貢哉アンバサダーと現地のNGO団体が案内をしてくれました。稲垣さんは、コットン畑をオーガニックに転換する活動をしてきた方でお世話になりました。今回はコットンの花が咲いている時期に畑と縫製工場を訪問したくて夏にしました。ただ、「やさしいせいふく」の畑があるエリア、オリッサ州は治安が悪いため諦め、別のオーガニックコットン畑を訪問しました。 オーガニックコットン畑の生産者の会議に参加 <p>WWD:そこで見たものは?</p> <p>福代:一言では、オーガニックコットンの大きなメリットです。オンラインでも生産者さんから「従来のコットン栽培では、農薬の影響で身体を壊したり、皮膚が痒くなったりすることがあったけど、それがなくなった。目に見える良い変化が会った」と聞いてはいましたが、畑で直接会ったことで実感できました。目の前にいるこの人が健康になったんだな、と知るとオーガニックのTシャツを着てよかったなと思うし、逆にこれまでは自分が着る服で農薬被害を受けていたのかと。オーガニックコットンは、遺伝子組み換えをしてないため背丈が低いこともあり、大量の水を必要とせず、雨だけで育つといった事実も知りました。</p> <p>WWD:逆にオーガニックコットンの課題は見えましたか?</p> <p>福代:遺伝子組み換えをしていないから綿の収穫量が少ないことです。ただ農薬の使用量が減ったことで利益は増えたそう。あと、殺虫剤を使用しないので虫がつくことがあることですが、これもコットンの間にレンズ豆を植えることでコットンに虫を寄せ付けない工夫をしていて、その豆をタンパク質源にするなど工夫をしていました。</p> <p>子供達にどう育ってほしいか?と質問をしたら、「市場価格は変動するから収入が安定せず、生活が苦しくなることもあるし、オーガニックであっても農家は炎天下できつい仕事だから、子供たちには農家になってほしくない」という言葉がリアルでした。</p> <p>WWD:そういう話はどういう環境で聞くのですか?</p> <p>福代:農家の方たちのミーティングに入り聞きました。「収入が安定しないから決まった価格でまとまった量を買い取ってほしい」という話が出たり、「どうやったらより高額で買い取ってもらえるのか?」などシリアスな話を聞く一方で、雑談では暇な時は皆で一緒にテレビ見ると教えてもらったり、スマホでSNSアカウント見せてもらったりして身近に感じました。</p> 予想以上に効率的で良環境だった縫製工場 <p>WWD:縫製工場も訪問したのですよね? 福代:はい、タミルナドゥ州コインバトールのGOTS認証を取得している縫製工場を訪ねました。予想以上に効率的、が最初の感想です。生地を裁断して縫う一貫工場で、複数の認証生地を扱うため、混ざらないようにラインが分かれており、縫製場所も区分されていたのが印象的です。労働環境はしっかり管理され、守られていました。寮があり、休憩時間や食事や水などのサポートもしっかりしている。電力も太陽光、風力でまかなうなど再生可能エネルギーにこだわっていた。ドキュメンタリーで見た悲惨な労働環境の工場とは全然違い、自分の服がこういういところで作られていてこういう笑顔を見られるならいいなと思いました。ただ残念ながらそこで作っているのはほとんどがサステナビリティの法規制が厳しいヨーロッパ向けの服で、日本向けの服は見当たりませんでした。</p> <p>「ナイキ」「パタゴニア」などを扱っている別の工場はさらに進んでいて、問屋を通さず農家との直接契約でオーガニックコットンを仕入れることで、より透明性を高めると同時もオーガニックコットン自体の研究を進めていました。オーナーが熱心で「仲介業者多いと、個々の企業に入るお金が減る。農家の収入を増やすためでもある」と話していました。</p> <p>WWD:工場の人たちとは直接話をしましたか?</p> <p>福代:はい、作っている人と仲良くなりたかったこともあり、休憩時間にスマホで自撮りしながら話しました。同世代の人は趣味が自分と同じ映画鑑賞だったりして、彼女が教えてくれたのは知らないインド映画ばかりで話は合わないけど仲良くなれた気がします。</p> <p>WWD:帰国して今思うことは?</p> <p>福代:今は、自分が着ているTシャツがどこから来たのか?鮮明に記憶に残っているし、作った人の笑顔も覚えている。自分が着ている服を今までで一番身近に感じています。自分の目で見たからこそ、他の服を見たときに「これを作っている人たちは同じような生活ができているのかな?どんな気持ちなのかな?どんな工場なんだろう?」と考えます。</p> <p>それと、本当のことをとても知りたかっただけに、「知ることができる服を探すのは大変」だと実感もしたから、アパレルメーカーが私たちの代わりにオープンにしてくれたら安心できるのに、とも思います。ドイツの子供服にはQRを読み込むと作った工場を見ることができるブランドがありいいなと思います。</p> アパレルで働く人たちにも生産現場を見てほしい <p>WWD:実はアパレルで働く人は農地や工場を見たことがない人の方が多いのです。</p> <p>福代:そうなのですね。「見たい」と思ってほしいし、関心がないのは私には不思議です。インドも1週間あれば行けます。インドの工場で会った19歳の人が「自分が作った服を着ている人を見たことがない」と言っていたから作り手も着ている人の姿を知らないのですよね。私は、服の背景に人がいて一つ一つにストーリーがあることをもっと伝えたいです。</p> <p>WWD:これから挑戦したいことは?</p> <p>福代:自分はまだまだ勉強不足です。なぜ農薬が使われるようになったのか?どうして低賃金労働が生まれたのか、服飾産業に限らずビジネスが不透明になってゆく、複雑になってゆく根本的な原因をちゃんと知りたい。だから高校を卒業し、来年からは大学でも経済学を学びます。これまでは「高校生であること」が伝える手段になり得たとも思うので、大人になったら思いを伝えるだけじゃなくて、個々の企業や産業全体が向かってゆく先に自分もいたいと思う。</p> <p>WWD:見てきたことはどう伝えてゆく?</p> <p>福代:撮ってきた映像をショートムービーにまとめており、上映会を行う予定です。この活動を通じて、繊維や生地の業界の人たちと会うことができたので、アパレルやショップなどの人たちにも会って伝えてゆきたいです。</p>