「川が襲いかかり…」東京から移住女性が経験した山形県戸沢村「豪雨被害の恐怖」と復興への道のり
「7月25日から26日にかけて山形県戸沢村を襲った豪雨は、村全体に甚大な被害をもたらしました。普段は心を癒やす豊かな自然が、この日はまるで牙をむくように村民を襲いました。生活を支えていた最上川も、激流となって村に襲いかかりました」 【たくさんの写真で…】最上川の氾濫により300棟が被害を受けた戸沢村の”悲劇” こう話すのは、’23年9月に山形県戸沢村の『地域活性化アドバイザー』に就任した勢古口信子さんです。 彼女は大手百貨店を退社後、’10年に都内で事業を起こし展開。アドバイザー就任後は山形に家を借り、東京と半々の生活を送っていました。豪雨に見舞われたときも、山形で生活していたといいます。 「役場に向かう途中、異様な空気と刻々と変わる天候を感じました。やがて避難が始まり、国道も寸断され、災害の規模の大きさを実感しました。村全体が一体となって対策に追われました」 25日午後11時40分に、戸沢村を含む最上地域に2回目の大雨特別警報が発令。大雨は長時間続き、26日午前4時ごろには最上川が氾濫し、村は濁流に飲み込まれました。 村内の建物300棟ほどが被害を受け、村役場も1階部分が浸水するなど、深刻なダメージを受けました。 「災害発生後、役場の職員は寝る間も惜しんで対応に追われました。自宅待機を余儀なくされていた私は、報道を通じて伝わる被害状況に胸が痛みました。特に役場が浸水した映像には言葉を失いました。 徐々に明らかになる被害状況は広範囲に及び、浸水や土砂崩れ、農作物の被害、国道の一部がえぐれ交通に影響が出るなど、村は大打撃を受けました。浸水した地域では消防がボートを使って救助活動を行い、一部地域では停電も発生していました」 隣町の自宅に待機していた勢古口さんが村に戻ったのは28日。その変わり果てた光景に息をのんだそうです。 「建物周辺のあらゆる場所が、長靴が埋まるほどの粘土のような土で覆われ、壁には腰の高さまで水の跡が残っていました。池で飼われていた美しい錦鯉は、溢れた水に流されて姿を消しました。 水没により廃車となった公用車がレッカー移動され、使用不能となった物も運び出され、瓦礫の山ができていました。自衛隊の車両や隊員が出動し、その光景に言葉にならない恐怖と無力感を感じました」 最も驚いたのは、そんな状況下でも誰一人として泣き言を言わず、黙々と片付けを進める村民の姿だったとか。 「村役場に勤めるAさんは、7月25日午後2時半ごろに避難所担当として緊急対応にあたりました。他の職員も高まる警戒レベルと一刻を争いながら避難誘導を行いましたが、その中には自宅が被災した職員もおり、Aさん自身も家族と共に避難所に身を寄せることになりました」 勢古口さんによれば、Aさんの自宅は浸水被害で、1階の家具はほとんどが使えなくなり、ガレージの車も全損。自宅に戻って疲れた体を休めることができないにもかかわらず、村全体の復旧作業を始めなければならなかったそうです。 また、戸沢村への移住希望者が利用できる「お試し住宅制度」(現在は休止中)で7月24日にタイから戸沢村入りしていた日本人男性Bさんとパートナーのタイ人女性も避難所生活を余儀なくされました。 「Bさんが、『災害は本当にいつどこで起きるかわからないと痛感しました』と話してくれたことが、とても印象的でした。彼は『到着して一夜明け、突然の大雨で自分たちがこんな状況に巻き込まれるなんて予想もしていませんでした。初めての土地で右も左もわからない上に、彼女は日本語も話せません。途方に暮れましたが、村の方々の温かいサポートのおかげで無事に乗り越えることができました』と話し、7月31日に戸沢村を去りました」 災害発生から5日後、被災地の最前線で復興作業にあたっていた自衛隊が撤収。それを目の当たりにした勢古口さんは決意を新たにしました。 「自衛隊が撤収し、いよいよこれからが本当の復興の始まりだと痛感しました。自然の恐ろしさを見せつけられましたが、村の人々の強い絆と全国からの支援がある限り、必ず再建できると信じています。 これからの戸沢村は、さらに強いコミュニティを築いていくでしょう。私もこの復興の一員として、村の未来に向けた新たな一歩を共に歩んでいきたい。災害に負けない、より強い地域づくりを目指して、未来への教訓とするためにも、この村の復興を支える役割を果たしていきたいです」 現在、戸沢村は『ふるさと納税災害支援』を募集しています。自然豊かな戸沢村を全国に広めるために活動する勢古口さんの“力”が、復旧のために必要になってくるに違いありません。 勢古口 信子(せこぐち のぶこ) 山形県戸沢村「地方創生地域活性化企業人・地域活性化アドバイザー」 1971年生まれ、大阪府出身。三越に入社し、婦人服売場や販売促進部を経てセントラルバイヤーを務めた後、’10年に株式会社ロコ・プロモーションを設立。大手アパレルやエステ企業の制服プロデュース、スタートアップ支援を手掛ける。現在は山形県戸沢村の地域活性化アドバイザーとして、ふるさと納税の拡大や地方活性化に尽力している。 取材・文:荒木田 範文(FRIDAYデジタル芸能デスク)
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