道新「セクハラ自殺」問題が法廷の場へ 問われる人権への姿勢
人権尊重を日ごろ紙面で訴える新聞社の姿勢とは真逆の実態が、法廷の場で質されようとしている ── 。北海道新聞社函館支社の嘱託看護師だったM子さん=当時40=が昨年2月、男性社員2人から忘年会の席で受けたセクハラによって自殺に追い込まれたとして、遺族が同社と社員2人に約8600万円の損害賠償を求める訴訟を22日、函館地裁に起こしたのだ。問題の忘年会に参加したのは計7人。セクハラ疑惑の場に同席した当時の函館支社長は今年6月に取締役への昇格を果たしており、M子さんの死に絡む不祥事にフタをした形になっているようだ。
◇ 訴状などによると、北海道新聞社函館支社営業部の社員2人は2014年12月8日夜、忘年会の場となった函館市内のカラオケ店や居酒屋で、卑猥な質問をしながら M子さんに体を押し付けたり、「愛人になれ」などと言いながら足をなでまわしたりしたとされる。 M子さんは社内のセクハラ相談窓口に被害を訴えたものの、同社は加害者2人による謝罪で済まそうとし、M子さんが求めた処分や人事異動といった措置は取られなかった。こうした対応に失望したM子さんは昨年2月21日早朝、自宅に火を付けて一酸化炭素中毒で死亡したという。
忘年会で「愛人になっちゃえ」
M子さんは亡くなる前日の日付で、同社を告発する文書やセクハラ相談の内部報告書などをマスコミ各社や労基署などに郵送している。告発文にはセクハラ被害後から発症した心身の不調もつづられ、「終わりのないPTSD(心的外傷後ストレス障害)から解放されて楽になりたい。でも、この手紙を書くまでは絶対に死ねない」と訴えていた。 M子さんの「自殺」の引き金となったセクハラとは、どのようなものだったのか。 マスコミ各社に届いた告発文や内部資料から再現すると、忘年会の出席者は函館支社健康相談室に勤務するM子さんと加害者とされる2人(営業部K次長、同M部員)のほか、函館支社長、営業部長、契約スタッフの女性2人の計7人。K次長によるセクハラはまず、二次会に向かう時点で行われた。M子さんは突然、右手を握られた。 二次会のカラオケ店では当初K次長はM子さんの斜め向かいに座っていたが、支社長に席替えを要求して立ち上がった。M子さんの隣に移ったK次長は「彼氏いるの?」「エッチしたいときはどうしてるの?」などの発言を繰り返し、体を押し付けてきたとされる。M子さんはソファーに押し倒されそうになり、必死で抵抗していたという。 「あそこの2人は置いていったほうがよさそうだねえ」。支社長は二次会終了後(午後11時ごろ)、M子さんとK次長の様子を眺めながらそう言ったという。K次長の行為をセクハラと認識できなかったのだろうか。 M子さんは二次会のカラオケ店から三次会の居酒屋に移動した際のことはあまり記憶にない。飲酒はしていなかったものの、K次長への対応で疲れ切っていたからだ。ただ、一次会の場で三次会への出席もK次長から念押しされていたこともあり、「ついていかなくてはいけないという暗示にかかっていたような感じだった」。 居酒屋に着くとM子さんとK次長、M部員の3人だけだった。M子さんの隣に座ったK次長は、性的関係を強く迫る発言を連発しながらM子さんの足を触ったり、体を押し付けてきた。M子さんはK次長の手を払い続ける一方、M部員は止めにも入らず2人の様子をただ見ているだけ。閉店時間(午前零時半ごろ)が迫ってきたころ、M部員は威圧的な口調で「Kさんの愛人になっちゃえば」と言い、K次長は呼応するように「そうだよ、愛人になっちゃえ」とさらに体を押し付けてきたとされる。M子さんは閉店時間まで抵抗を続け、何とか無事に帰途に就く。 忘年会でセクハラ被害に遭ってからM子さんは体調不良に陥った。朝から体の具合がすぐれず、食欲もなく、体重が落ちた。K次長と支社内で会うと体がこわばった。足がざわざわすることもあった。「話しても信じてもらえない」という気持ちから、本社のセクハラ相談窓口に電話するまで10日を要した。