道新「セクハラ自殺」問題が法廷の場へ 問われる人権への姿勢
配置転換や謝罪、懲戒など義務付け
覚悟を決めて訴えたM子さんのセクハラ相談は、失意だけが増していくことになる。その根本の原因は、2人への処分を望んだM子さんに対し、担当者が「(加害者を)処分するには忘年会に参加した全員の事情聴取が必要」といったハードルを持ち出したことにある。 ちなみに、男女雇用機会均等法が各事業主に義務付けているセクハラ対策措置などによると、「セクハラ相談窓口の担当者らは相談者(被害者)と行為者(加害者)の双方から事情を聴き、主張に不一致があったり、事実確認が不十分な場合は第三者からも事情を聴取する」としている。これをM子さんのケースに当てはめれば、社員2人との主張が不一致にならない限り、全員からの聴取は必要なかったはずだ。 さらにセクハラの事実が確認された段階では、事案の内容に応じて「被害者と行為者を引き離すための配置転換や行為者による謝罪などのほか、被害者のメンタルヘルス不調の相談に対応する」「行為者に対しては、各職場のセクハラ規定に沿った懲戒などの処分を講ずる」といった措置を示している。 M子さんに話を戻すと、いったんは忘年会の参加者全員からの聴取が条件の加害者処分をあきらめる。契約スタッフの女性2人の立場に配慮し、「彼女たちが働きづらくなる」と思ったからだ。このためセクハラ相談窓口の報告書には次の記述がなされた。「今後について(相談者は)本格的な調査は望んでいない。現職場でこれからも働き続けたいので、大掛かりなことになっては困る。加害者には厳重に注意してもらいたい」 年が明けた2015年1月23日、本社担当幹部が立ち会う中、2次会と3次会での発言や行動に関してK次長ら2人はM子さんに謝罪文を提出し、本人を前に謝罪も行った。だがM子さんは「許しません」と突っぱね、「2人が健康相談室に入ってくることを想像しただけで動悸が激しくなる」という内容の、被害後から溜め込んだ思いを本社側にぶつけている。 セクハラの事実を認めているにも関わらず、2人に就業規則に沿った処分を科さず、謝罪のみで終わらせようとする道新の姿勢に、M子さんは憤りと不信感を募らせていく。2人が函館支社から異動するよう訴えてもまともには取り合ってもらえず、抑うつ状態が悪化していった。 「人を人とも思わない。そのくせ、新聞では庶民や弱者の味方のようなふりをする。道新に不正を追及する報道機関の資格はありません」。死の数日前にしたためたとみられる告発文にはこうした文言も連なっている。