《世界が驚いた日本の公立小学校》密着ドキュメンタリーが映し出す「日本人の作り方」に感じる“納得と違和感”【『小学校~それは小さな社会~』】
気持ちって一つにならなきゃいけないの?
運動会で6年生が縄跳びの集団演技をする。その練習に集合するのが4分ほど遅れた。それを注意する教師の言葉。 「誰かが遅れた時点で先生は気持ちが一つになっていないなあというふうに思ってます」 気持ちって一つにならなきゃいけないもんなのかなあ。続けて、 「運動会の練習は、その過程で自分ができないことの壁をどうやって乗り越えようとしている過程でみんなは成長していくんです」 言ってることはわかるんだけど、乗り越えようとする課題は子どもたちが自ら選んだものではなく教師から一方的に与えられたものだ。できる子はできるし、できない子はできないということもある。私自身、小学校では体育が苦手で運動会は苦痛だった。映画の中の子のように逆上がりができなかった。それを助ける友だちの姿は救いだが、できない子にとって「できるように努力するのが大切」と言われても苦行でしかない。 新入生を歓迎する新2年生の器楽演奏。その練習でタイミングが合わないシンバルの女の子に教師が「楽譜を見ないでもできるように練習しているんですか」とみんなの前で問いただす。ほかの児童は練習していると言われ女の子は泣き出してしまう。記事の冒頭で「私たちって何なんだろうねえ」と問いかけたのはこの子だ。そこに共通するのは、みんなに合わせるのがいいことだという同調圧力。こうして上の人の言うことに従うべきだという感覚が刷り込まれ、そこになじまない人間を排除するという空気が生まれると感じる。
小学校と日本人の「光と影」
それを映画の中で的確に指摘しているのが、國學院大学の杉田洋教授だ。給食や運動会など特別活動が専門で、この小学校で教師を対象に講演を行った。日本が戦時中、学校で軍事教練をして戦争に駆り立てていたこと。今も子どもたちに連帯責任を負わせるような教育が行われ、いじめを生む元になっていると指摘した上で、 「日本の集団性の強さ、協調性の高さは世界がまねたいことの一つでありますけど、これは実は諸刃の剣であることをよく知っておく必要があります。日本のやり方は果たして本当にいいのか」 教師たちはメモを取りながら真剣なまなざしで聴いている。この場面をあえて配したところに山崎監督の問題意識が表れているように感じた。英語でのタイトルもそうだろう。 「THE MAKING OF A JAPANESE」(日本人の作り方) 日本の子どもたちは小学校で「日本人」になる。小学校と私たち日本人の「光と影」を見事に描き切ったドキュメンタリーだ。 『小学校~それは小さな社会~』 監督・編集:山崎エマ/2023年/日本・アメリカ・フィンランド・フランス/99分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/©Cineric Creative / NHK / Pystymetsä / Point du Jour/全国順次公開中
相澤 冬樹/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル
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