東大生はなぜミステリー小説を書く? 在学中の作家「授業から着想を得ることも…」
小説の着想は東大の授業から
東大生ミステリ小説コンテストの大賞受賞後、担当編集者のすすめで2作目の「責」(「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」優秀賞)に取りかかりました。学業との両立は大変ではなかったのでしょうか。 「1作目のように短期集中で書けるようなボリュームではなかったので、毎週金曜のこの時間帯に必ず書くと決めて図書館にこもって、コツコツ取り組みました。昨年の5月くらいから書き始めて、8月からの留学中は留学先でも書いていました」 浅野さんの2つの作品は、どちらも法律が関わっており、東大法学部に進んでいなければ生まれなかった作品ともいえます。 「授業で小説の着想を得ることも多いです。行政法や民法など法学部の授業だけではなく、聴講した文学部の授業などを受けるなかで、どうにも引っかかることや面白いと思ったことをメモしておきます。それらを頭の中でまとめていくようなイメージです。例えば、倫理学の授業で哲学者や思想家が『運』をどのように論じてきたのかを学んだのですが、それは2作目のテーマの一つになっています」 デビュー作の「テミスの逡巡」は、東大生が運営するウェブメディアが舞台になっていますが、これは実在する東大発オンラインメディア「UmeeT」がモデルです。 「友達が編集長をしていたので、どんな感じで運営しているのかなど、世間話がてらに聞いたりもしました。当時は恥ずかしくて、小説のための取材だとは言えませんでした(笑)」
作家を専業にするつもりはない
浅野さんの作品は、登場人物それぞれが多角的に描かれ、個々の人間に対して複雑で深いまなざしが向けられています。20代前半でありながら、そうした視点を持てるのはなぜでしょうか。 「中高時代、同級生にはいろいろな人間がいたので、その影響があるのかもしれません。僕はテレビドラマの『相棒』シリーズのファンですが、シナリオもさることながら、やはり人間をしっかり描けているからこそ面白い。作品が面白いかどうかの基準の一つはそこにあると思うので、自分の作品にも反映していきたいと思っています」 浅野さんは、筑波大学附属駒場中学・高校の出身です。現役で東大文一に進学し、3年次に法学部に進みました。五月祭(学園祭)では演劇を上演し、かたやプリンストン大学で政治学を学ぶなど、文学とは離れた生活をしてきています。 「大学に入学した時点で、小説を書くことからは足を洗って現実的に生きていこうと決めていました。読む本も小説から学術系に変わり、政治学、社会学にも興味が出てきました。今後も作家を専業にしようとは思っていません。作品を次々に書けるタイプではないので、作家を専業にする自信はないですし、まだ青二才なので社会に出ていろいろな経験を積みたいと思っています。そしてその経験を小説に生かせれば理想的です。大学は今年度で卒業しますが、その後は司法試験を受けるつもりです」