高橋大輔「人生のターニングポイント」に大きく影響を与えてきた「氷艶」を語る
異業種の人々との「縁」が生まれる場所
「氷艶」とは、日本文化とフィギュアスケートが融合し、異種の演者が競演する氷上総合エンタテインメントである。2017年、歌舞伎と融合した『氷艶 破沙羅』で源義経を、2019年『氷艶 月光かりの如く』は源氏物語をテーマにした音楽劇で光源氏を主演で演じ、稀有な挑戦をしてきた。フィギュアの競技人生との深い関わりもあるが、高橋大輔さんにとって、このエンターテインメントそのものはどのような意味をもつのだろう？ 「僕にとって『氷艶』とは、常に新しいものに挑戦できるチャンスを与えていただくものですね。これまで殺陣や芝居、また日本舞踊や歌などスケート以外のことに挑戦させていただきました。そして何より、普段は出会えない異業種の方たちとの出会いの場であることはとても大きいです。同じ舞台に立ち、いろんなことが吸収できるチャンスがあり、そのご縁が公私を超えてつながっていく。今回僕がフルで演出させてもらった『滑走屋』の振付を依頼した鈴木ゆまさんとの出会いもそうですし。どこで何がつながっていくかわからない、とても貴重なご縁をいただく場となっています」 「氷艶」の「えん」という読みには、「縁」の意味も含んでいるそうだ。その名の通り、異種のエンタメの才能が集まり、刺激しあいながら一つの氷上の舞台を作ることで結ばれる「縁」が広がっていく。
第1作は「歌舞伎との融合」
2017年の『氷艶 破沙羅』は、歌舞伎との融合。松本幸四郎(当時は市川染五郎)さんが歌舞伎の悪のキャラクター、仁木弾正を演じ、それに対抗する善の象徴として、高橋さんは源義経を演じた。歌舞伎とフィギュアの融合と聞き、当初高橋さんはどのように思ったのだろうか？ 「どういうものになるか全く想像できなかったです。でも歌舞伎といえば、日本の伝統芸能。フィギュアスケートも西洋で生まれた、やはり歴史あるもの。そんな東西の伝統文化が融合することは、エンタメの可能性がすごく広がるなとは思っていました」 実際の舞台は、歌舞伎役者の演技の華はもちろん、氷の上の毛振りや六方、殺陣や歌舞伎の大道具が氷の上でスケーティングと融合して登場、スピーディでものすごい迫力となった。その斬新な世界に「歌舞伎ってこんなにすごいものなのか」と改めて発見したと同時に、フィギュアスケートの華やかさとスピード、セリフがなくても気持ちが伝わる演技など、その魅力も再確認できた。 「フィギュアスケートの特徴って、やはりスピードだと思っています。舞台であんなに早く移動できるものはないので、それがほかの種類のエンタメと結びつくことで、フィギュアのショーの新たな可能性がまだまだあると感じられる。殺陣については、子供の頃からチャンバラごっこが大好きだったので、刀を持って演技するのは、わくわくドキドキして、すごく楽しかったです。1回目の氷艶の殺陣は、ただただ楽しんでやらせていただきました。あの時は、劇中でスケート靴をぬいで、ソロで日舞を踊る場面がものすごく難しかったので、そちらのほうが消耗しました」 これは、高橋さん演じる源義経が、遊女「阿国」に化けて松本幸四郎さんが率いる悪の巣窟に乗り込んでいくシーンのことだ。歌舞伎のそうそうたる役者たちの面前で、スケート靴をはかずに氷の上にひかれた絨毯の上で、ヒップホップの手踊りを取り入れた日舞を披露した。このシーンの最初、仮面をつけた姿の男性が現れ、スケート靴をはかずに日舞を踊りだしたので、「歌舞伎界に、素敵な若手がいるのね」と思っていたら、舞の途中から、そのなんともいえぬニュアンスと場の空気が熱気を帯びていく様子に高橋さんだと気づいた。
