「托卵」を納得させた“用意周到”な構造 『わたしの宝物』がトリッキーな不倫ドラマにならなかった理由
■“変化”を表現…田中圭の魅力が爆発 導入部の用意周到に見事に“乗った”役者陣の好演も忘れてはならない。 主人公の美羽を演じた松本若菜は、「托卵」というどこを切り取っても共感に値しないキャラクターに血の通った命を吹き込み、連続ドラマの主人公としての華だけでなく、最後まで見届けたいと思わせるたくましさを表現してみせた。 そんな主人公をも上回る魅力を爆発させていたのが、夫・宏樹を演じた田中圭だろう。宏樹は特に難しい役どころだったに違いない。なぜなら、序盤と中盤以降で全く異なる人物と思えるほどに、“変化”を表現しなければならなかったからだ。 序盤はというと、妻の外出着にも口を出し、妊活の申し出にも“暇だから子どもが欲しいんだろう”と蔑むほど、酷過ぎる夫だった。しかし子どもが生まれた瞬間に父性が目覚め、序盤の姿と見違えるほどに温かみのある人物へ自然と変化し、最終的には彼の幸せを望まずにいられないキャラクターへと成長していった。 序盤の行為は、どんなに改心したとしても“取り戻せない”と思っていた視聴者も多かっただろう。しかし後半では正反対の感情を芽生えさせてしまうほど、田中圭の魅力が爆発していたのだ。それほどに、このドラマにおける宏樹という存在は圧倒的であった。
『昼顔』『あなそれ』の“結末”と比較して見えるもの
今作の意外ともいえる結末については、系譜と言っていい過去2作の『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』と『あなたがしてくれなくても』の“結末”を振り返ったとき、あの形こそが必然とも思える準備が整っていた。 2014年放送の『昼顔』は、既婚同士でありながら惹かれ合い不倫に陥ってしまった主人公だが、最終回では二度と会わないという誓約書を交わすこととなり、一人孤独に生きていくラストを迎えた。続く映画版では、二度と会わないという約束を破ってしまったことで、不倫相手が故意の事故により死亡してしまうバッドエンディングに。これは、不倫という過ちを犯した者にはその報いが必ずくる、決して幸せにはなれない…言い換えれば、そうしなければ世間も許してはくれまいという、世相を反映したような“結末”だったと言えよう。 一方、昨年放送された『あなたがしてくれなくても』は、長年のセックスレスからプラトニックな不倫関係に陥り、やがて夫と離婚し一人で生きていくことを決める主人公だったのだが、離婚した元夫と距離を置いたことにより本来の思いを取り戻し復縁するという、いわゆる“元サヤ”決着だった。これは不倫は決して許されない…幸せにはなれないという前作の“結末”から次なるステージを見せたもので、どんな罪を犯したとしても、自らの幸せの追求は避けられないという、『昼顔』を経たからこそ生まれた意外性のある“結末”であった。 そして今作はというと、『わたしの宝物』というタイトルになぞらえ、自分にとっての“宝物”は何か?を導き出すことで、それぞれの“結末”が描かれた。美羽と宏樹が、子どもを含めたこの家族関係こそが“宝物”であるとお互いが確認し合い、再び夫婦生活を取り戻す“元サヤ”決着。これは、一見『あなたがしてくれなくても』と同じ結末なのだが、今作では、夫にとって“血のつながらない子ども”が介していながらも“元サヤ”に収まることができる…それが子どもも含めた3人の“幸せ(=宝物)”であるという、新たな解釈を加えたものと言えよう。 この三部作の“結末”を比較することで、よりそれぞれの作品の深みも感じられるのではないだろうか。