静岡県が「富士山の入山規制」をはじめる…「危機的状況」とされた世界遺産は改善されるのか
富士山が入山規制をはじめる
静岡県は、今年の夏から富士山登山の入山規制に乗り出すことになった。日本を代表する観光地の一つで、インバウンド需要もあり、様々な意見が飛び交っている。 【一覧】占星術研究家・鏡リュウジが「12星座別の運気」を徹底解説! これまでにも、富士山登山に規制がかかることはあった。昨シーズンには、山梨県が独自の入山規制をスタートさせた。吉田口登山道5合目付近に『ゲート』を設けて、その『ゲート』への入場料(通行料)として2千円、保全協力金1千円の合計3千円を徴収したのだ。 そして今回、静岡県は「手数料徴収条例」を改定するという‟荒技”を使い、夏のシーズンから3つある登山道で4千円を徴収する仕組みを創設する。 また、4千円の「手数料」徴収とともに、午後2時から翌午前3時までの間は登山できないという夜間規制時間を設ける。 この動きに足並みをそろえるために、山梨県も保全協力金を廃止して、通行料として4千円を徴収、午後2時から翌午前3時までの夜間規制も同様とする方針である。 この結果、登山者は、富士山の4つの登山道入り口で一律に4千円を支払うとともに、夜間規制などの入山規制が整うことになる。 この“大幅”な規制強化の背景には、過剰利用問題がある。 富士山には、約2カ月という短期間で30万人以上の登山客が押し寄せたという。 お盆期間中などには、大混雑するだけでなく、無謀な弾丸登山や軽装での登山が数多く見られ、遭難が増え、救援依頼が続出するなど、その対応に追われていた。 なので、今回の入山規制は好印象に受け止められる。自然と文化の融合した「日本の象徴」として富士山が世界遺産リストに登録されて約10年。ようやく世界遺産にふさわしい保全に向けて第一歩を踏み出すことになったのだ。
世界文化遺産登録の脇に置き去りにされる
約30年以上前から今まで、富士山は世界で最も危機的な国立公園の代表とされてきた。ごみだらけ、し尿の垂れ流し、山へのオフロード車の侵入、山麓の不法投棄など「環境問題のデパート」と称されるほどだった。 そのせいで、当時から「世界自然遺産」を審査する国際自然保護連合(IUCN)などから、過剰利用の改善を求められていた。 それに反応したのが、静岡県の保護団体などであり、世界遺産として富士山を保全することを目指し、活動が始まった。 それが世界遺産運動に発展して、静岡、山梨両県の100以上の団体が246万人もの署名を集めて、国会請願するなどの働き掛けなどに続いていく。 ユネスコ世界遺産センター(本部・パリ)は「富士山は日本の文化の象徴として、世界的な意味で、歴史的、文化的に評価されている。ただ保護・保全が十分ではなく、適切な管理がされていないことが課題だ」と指摘していた。 当初、世界自然遺産としての登録を目指していたが、非常に難しいことがわかっていた。 世界自然遺産の登録基準は、「世界で一番高い、大きい、広い」あるいは、「唯一の貴重な動植物が存在する」など他との比較が重要であり、それだけハードルが高い。 その登録基準だけでなく、富士山スカイラインや富士スバルライン、5合目の観光開発などに厳しい規制が求められ、規制に対して、地元の反発が強く怒ってしまった。 このため、文化庁を中心として、世界文化遺産に登録する方向に転換。そして、大手広告代理店・電通を中心に多額の費用を掛けた世界文化遺産への働き掛けが功を奏して、2013年7月、日本人の「信仰の対象」として世界遺産に登録された。 世界遺産登録に当たって、「富士山」から「富士山~信仰の対象と芸術の源泉~」に名称を変更したことも登録には欠かせなかった。 その結果、富士山保全にどのように取り組むのかは置き去りにされてしまった。 富士山という山ではなく、「信仰の対象と芸術の源泉」に関わる点と線の部分が世界遺産になったのに過ぎない。 日本を代表する自然美として世界遺産に認められたわけではなく、4つの登山道など、「信仰の対象」とされる25の構成資産が世界文化遺産に登録されたのだ。 このため、世界遺産に登録されたのに、ユネスコ世界遺産センターが求める富士山の保全、適切な管理は全く行われる気配さえなく、最も重要な過剰利用などの課題解決も遅々として進まなかった。 2023年には富士山世界遺産登録10周年を記念するさまざまなイベントが行われたが、肝心の富士山保全、適切な管理については無視されていたのだ。 それが、山梨県の長崎幸太郎知事が突然、富士山保全を目的に入山規制に乗り出し、流れが変わり始めた。【後編を読む】『「富士山の入山規制」をめぐる静岡と山梨の違い…静岡が夏からはじめる“荒技”の詳細』に続く。
小林 一哉