通天閣近く履物店店主はジャズ専門レーベルオーナーと二足のわらじ!?
ジャズCD販売に先祖伝来の履物商法を活用
下駄とジャズが通天閣の下で出会った。シュールレアリストの詩句の一節のようだが、澤野さんの中では、三者の相性は悪くない。澤野さんは音楽業界で働いた体験がないため、ジャズCDの制作販売に、先祖伝来の履物商法を持ち込んだという。 「下駄は寿命が長く、1年は持つ。履物屋にとっては、顧客に一度購入していただくと、次の購入は1年先になる。それでもお客さまをひとりずつ獲得してお得意様になっていただくうちに、商いが回っていく。根気が求められる息の長い商売です。ジャズCDも焦ることなく、1枚ずつ丁寧に作り、顧客に誠実に接してきたのが良かった」(澤野さん) 新世界も100年あまりの時代のうねりに翻弄されてきた。一時は活力を失いかけたが、レトロ感覚を逆手にしぶとく生き残り、若者たちでにぎわう。 ジャズ部門の立ち上げから36年。今は市場自体が縮小気味の履物部門を、堅調なジャズ部門が支えている。まちから履物店が消えると、履物文化、着物文化そのものが途絶えてしまいかねない。 「履物を作る職人さんが減り、履物小売店も浪速区内で当店1軒だけになりましたが、当店を頼りにして来店されるお客さんがいらっしゃいまして、それなりにやりがいのある商いになっています。できるかぎり履物文化の伝統を守っていきたい」(澤野さん) 5代目候補の長女に履物部門の実務を徐々に任せながら、いましばらくは二足のわらじで夢を追う。「私たちの世代はジャズ、ロック、クラシックなど、ジャンルを問わず多様な音楽を浴びながら育った。音楽黄金期の世代です。かつてのジャズ喫茶のように、音楽を浴び、音楽の楽しさを伝えられる場所をつくりたい」(澤野さん) 「聴いて心地よかったらええやんか」。澤野さんの音楽の旅はあしたも続く。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)